「――話がある。家へ案内してもらってもよいか?」

 蒼い袴の言葉に、日向は「はい」と頷いた。本来ならば急に戦いを挑まれ、なお「母の友人」という初対面の相手を信じる理由などなかったはずなのだが、日向は何故か疑うことはせず二人の女性――蒼い袴の長い髪の女と、紅い袴の短い髪の女を家へと案内した。
 無言で歩く三人。道を案内しなければならない為、自然と日向が先頭となり後ろに二人が付いてくる形となっていた。
 話したいことがある、聞きたいことがある。だけれど、後ろを振り返って話すのも気が引け、かといって、二人と並んで歩くのもおかしく感じ、日向は結局無言のまま前を歩くほかなかった。

 気まずさは――不思議とない。不安もなく、逆に落ち着いていた。
 そう、不思議なほどに。
「母の古い友人」というのなら、幼き日に会っているからかもしれない。だが、どう思い起こそうとしても日向の内に二人の面影が浮かぶことはなかった。
「力を試したかった」、「似ている」。何故、力を試さなければいけなかったのか。誰に似ているのか。それに、「力」といえば――
 疑問は消えず、だからといって、口を開くことはなく日向はただ歩き続けた。母に会えば解決するかもしれない。だが、母に会って解決してもいいのかとも思う。母に会う前に、知らなければいけないことがあるのではないか。

「母に会う前に、わたしが知っておくことはありますか?」

 足を止め振り返り、日向はその一言だけを蒼紅の二人に向けた。

(聡い子だ)

 蒼き袴の女は内で感心し、だけれど、やはり問いに答えることはせず、

「家で話す」

 それだけを静かに言った。日向は頷き――やはり聡いのだろう。答えないことが答えだと理解し――再び足を踏み出した。