ただし、鈍いといわれればそうではない。柔らかく微笑んでいるかと思えば、時折、驚くような核心をつく発言をしたり、運動も武道を習っているせいか人より優れていた。そんな不思議なギャップがなお日向を魅力的にし、周囲を魅了した。
学園外にも評判になるほどの少女になってしまった日向。日向の周りに人が集まるにつれ、日咲は複雑な想いになったものなのだが――それはともあれ。
「…………」
ほう――と、日咲はもう一度胸で息をついた。もう少し歩けば日向と別れなければならない。家が別なのももちろんあるが、日向には用事がある。だから、遊びに誘うわけにもいかない。
「ひなちゃんは、今日もお稽古?」
答えが分かっていることをあえて聞いてみた。何かを話したかったという気持ちと、もしかしたら別の答えが出てくるかもしれないと期待して。
「うん」
「そっか」
ニコリと微笑んで頷く日向に日咲は短く呟いた。少し寂しく聞こえてしまっただろうかと気にしてしまうが、正直な気持ちを隠すことができなかった。二人の時間が終わってしまう。その寂しく悲しい気持ちを――毎日のことであるのに、日に日に強くなっていく気持ちを抑えられなかった。
少し我侭を言ってみようかな――普段の日咲なら絶対に思わないようなことが、何故かふと頭に浮かんだ。明日の朝も一緒に登校するし、夜、武道の稽古が終わった後に会いに行ってもよかった。日向の家に泊まりに行くことさえ普段のことで、特別なことではない。それなのに、何故か今離れたくないという気持ちが湧き起こっていた。