蒼天の柔らかな陽の閃光が降り注ぐ学園への路の途中――ふと、少女は立ち止まった。
誰も見向きもしないような道の端に病にでもかかったかのように萎れている花一輪――桜草。芽吹く春だというのに、朝の陽に照らされた花弁にはもう皺が入り倒れ掛かっている。少女は、そんな小さな一輪の花を見つめる。
誰かに踏まれたものか、それとも自然の摂理か――本来ならば不憫と思うのも助けようと手を出すのも人の傲慢だろう。そうだと知りつつも、あまりに可哀想なので少女はそっと花弁に手を触れた。
――しばらくの後、桜草は綺麗に背を伸ばし凛と花開いた。瑞々しく輝かしく咲いた花弁が僅かに風に揺れる。
お礼をいわれたような気がして、少女はにこりと微笑んだ。そして、こちらも「ありがとう」と心でお礼をいう。可憐に花開いたことに、凛とした姿を見せてくれたことに。嬉しい気持ちにさせてもらったことに。
少女は膝を曲げ屈んでいた身体を伸ばし立ち上がった。短く綺麗な黒髪が頬を撫で、制服が風にたゆたう。まるで自身が舞う花のように、少女の一つ一つの動きは可憐で華やかで見るもの全てを惹き寄せた。
桜草――花言葉は確か「青春」、「若者」、「希望」、「長続きする愛情」。そして、「若い時代と悲しみ」。
少女は静かにゆっくりと歩き出す。容姿ばかりに目を行く周りの人々を余所に、小さな一輪の花だけが少女の内を知り、その後ろを見送っていた。