――全てを話すには、理解するには長い時間が必要だったろう。だが、妃紗は口を挟むことなく、一つ一つ頷き日向の話を静かに聞いていた。

「うん――」

 全ての話を聞き終わり、妃紗がまずしたことは頷いたことだった。椅子に座ったまま机の上に両の手を組み、そして、僅かに瞼を伏せ、ただ一言頷いた。
 妃紗が日和のことを知っていることを、日向は陽織から事前に聞いていた。だからこその想いがある。陽織や灯澄、弥音と同じように妃紗にもまた妃紗しか知らない、妃紗にしか共有できない日和の想いがあった。
 黙って話を聞いていた妃紗の内に何が宿ったのか。日向の話で何が伝わったのか。それは、妃紗自身にしか分からない。いや、もしかしたら、知り合った年数でいえば妃紗は日和よりも日向のほうが長い。妃紗にしてみれば、日向のほうにこそ想うところがあるのかもしれない。

「それで、あなたは……日向はどうするの?」

 それは学園長としてだったのか、古き知り合いの子としてだったのか、それとも、妹の友人としてだったのか。
 そのどの立場だったかは分からなかったが、妃紗は日向にそう問いかけた。静かに、真っ直ぐに日向を見つめたまま。

「わたしは――」

 日向は口を開きかけ――少しだけ噤んだ。唇を僅かに噛み、躊躇したのは日向には珍しいことだったが、それが日向の真実の姿であり心でもあった。真っ直ぐな日向だからこそ、これから話す言葉に重きを置いた。

「まだ、分かりません」

 その言葉に、周囲の空気が少しだけ変わった。日向が自身のことで今まで「分からない」などと口にしたことはなかったからだ。陽織も灯澄も燈燕もスズも息を飲んで日向を見守る。