日和は一人でここを訪れた。最後にたった一人で。
 あの時、共に行くべきではなかったのか、と何度も思い、そして、後悔もしていた。許されるべきではない行為。仕える主に一人で行かせてしまった罪。
 しかし、それは――日向が居てくれたお陰で救われた。日向の笑顔に、存在に、日和より託されたことを心に何度も刻み、そうして日々を紡いできた。

 そして、今。

 十四年前、主と――日和と共に行くことができなかったこの場に日向と共に居る。

 ――日和様。

 陽織は胸で呼びかけた。それは、嬉しさか、悲しさか、償いか、謝罪か――どんな感情なのかは自身でも分からなかったが、陽織は日和の名を呼んだ。

 ――私は、日向……日向様と共にここに居ます。

「……お母さん?」

 呼びかけられ、陽織ははっとした。慌てて涙を拭う。今は泣いていい時ではない。ましてや、日向に心配をかけるような事をしてはならない。

「ごめんなさい。何でもありません」

 微笑む陽織に、日向もまた微笑を返し、それ以上聞くことはしなかった。

「……日向、あなたは私が守ります」
「ふふ、駄目ですよ、お母さん」

 母の言葉に日向はくすりと笑った。

「怖い顔になっています」

 日向はどこまでも明るく、日に当たる花のようにふわりと母へと伝えた。

「わたしたちは、戦いに来たわけじゃありません」
「…………」

 ああ、日和様――あなたのお子はこんなにも立派に――

「……そうですね。ごめんなさい」

 日向の言葉に、そして、日向と共に在る日和の魂に陽織はまた溢れそうになる涙をぐっと我慢した。
 二人の母子の姿を門番はどう映っただろうか、何を感じただろうか。おそらくは、その深くを知ることも感じることもできないだろう。その美しさを、清らかさをどうして知ることができよう。