玉藻前(たまものまえ)、九尾の狐です。妖世界の中で大きいといえば、そこになると思います」
「しかし、九尾がこちらをどう思っているか、もしくは知りもしないかもしれないのに、急に会いにいくというのもどうか」
「そうですね」

 考えるとき一時――日向は伏せていた瞼を開くと、リンと鈴が鳴るように言葉を発した。

「月代家へと行きましょう」

 その言葉に、場に居る全員が日向を一斉に見つめた。

「少なくとも、月代家と会うことで、わたしたちが盾となることができます。皆さんにも迷惑をかけてしまいますが……」
「いや、そのことはいい。だが、確かにお前が会いに行ったとなれば、妖の問題よりもまず我らへと目が行くだろう」

 灯澄は腕を組み頷いた。

「遠まわしだが、妖にも恩を売ることにもなるか……あちらが、恩と思うかどうかは分からぬが」

 日向の考えには一理ある。いや、おそらくは最初から月代を先に行くことは決めていたのだろう。月代か妖かの二者択一であれば悪くない選択だった。とはいえ、もちろんその為の準備は必要だが。

「月代か……」

 燈燕は苦々しく呟く。灯澄の考えは理解できないことはないが感情ではやはり良い気はしない。戦いたくないという日向の気持ちは知っている。しかし、まだ燈燕は月代なぞ滅ぼしたほうが世のためだという気持ちがどこかにある。
 そんな燈燕の表情に申し訳ない気持ちになりながらも、日向は自身の考えの続きを話した。

「行くのは、わたしと……お母さんの二人だけです。お母さん、お願いできますか」
「もちろんです」
「……やはり、そうするか」
「ごめんなさい」
「なにを言っている、我らも行くに決まっているだろう」
「いや、我らが行ったほうが日向の迷惑になるだろう。月代は妖には容赦はない。例え、敵意が無くともな」

 日向に詰め寄ろうとする燈燕を灯澄は静かに止めた。そんな灯澄を苛立ちとともに睨み、燈燕は声を低くした。

「しかし、それでは日向の身になにかあったらどうする」

 燈燕の心配は当然だった。日向の母、日和の事がある。日向と陽織の二人だけでは、月代が何をしてくるか分からない。