「先程話したように、月隠は月代から離れた家。あちらが月隠をどう思っているか……実際のところは直接聞くしかないが、今の段階でこちらに対する動きはない。スズから聞く話では相変わらず妖退治をやっているらしいが、昔のように大きなこともやっていないらしい。妖が上手く隠れているともいえるだろうが……ともあれ、このままこちらのことを知られずにいられるか、と問われると、それは難しいだろう」
「というと?」
「話したように、月代は今でも妖退治をしている。それはつまり、妖の動きを注視しているということだ。もし、日愛のことによって妖の動きが活発になれば……ましてや、それがお前の様子を伺っているということが知られたならば、真っ先に月代は接してくるに違いない。月代は月隠を滅ぼしたことをよく分かっている。もし、月代に敵対したら、と考えれば焦りもでるだろう。妖を率い、一つの勢力ともなれば厄介となる。そうしない為に、餌を出してくるに違いない」
「餌……」
「気分が悪くなる話だが……おそらくは、利害を説き、昔のことは水に流し取り込もうとしてくるだろう」
呟く日向に、灯澄は苦々しく吐き捨てた。月代の考えそうなことは想像できる。
「虫のいい話だな。誰が、応じるものか」
「月代も同じ事を考えるだろうさ。簡単に応じてくれるとは思っていないだろう。だからこそ、餌が大事になってくる。果たして、何を提示してくるか――いや、そうか」
同じように恨みと憎しみを込めて吐き捨てる燈燕に灯澄は応じ……そして、思い至り一人頷いた。月代ならばやるだろう。餌に毒を混ざることくらい、平然とするはずだ。