「確かに、月隠の滅びとともに一度はその存在は忘れ去られた。だが、日愛の力は大きい。目覚めたことは確実に近く妖の中で知られることになるだろう。そうなれば、誰が目覚めさせ治めたかという問題となる。残念だが、目覚めた日愛は隠せるような存在ではない。共に在るお前の存在、月隠の存在が知られるのも遠くないはずだ。そして、そのことが今一度何をもたらすか……昔とは状況が違う。月隠は月代ではない。その月隠が日愛と共に在る。恐れを抱く者、静観する者も居るだろうが、月代でないのなら利用し仲間に引き入れようとする者も出てくるに違いない。近いうちに接してくるかもしれぬ」
「……そうですか」

 灯澄の言葉に、日向は再び頷き静かに呟いた。
 確かに、だった。現に、日向にとっては日愛、灯澄、燈燕、スズ……妖というものは自然なものであり、人と変わりはなかった。敵対するということすら思いもつかない。友人となりたいというのなら、喜んで受け入れた。
 だけれど、灯澄の話す通り、当然、そう単純にはいかないことも分かっていた。自分は妖ではなく人であり、そして、赤子の時にすでに離れたとはいえ、周りは日向を元月代家の人間だと見る。
 月隠と名乗れば尚更――と、そこでふと疑問がよぎる。
『利用し、仲間に引き入れる』。月隠と分かって、何故そうしなければならないのか?

「月代はどうなのですか?」

 日向は、灯澄に問いかけた。妖と月代――自分と月代、まずはそこを知らなければならない。

「そうだな……まずは、月隠、お前に対する月代の考えを話さねばなるまいか」

 その質問は当然と灯澄は頷き――そしてまた、月代の現状へと考えが至った日向に満足しながら――元より話すつもりだったのだろう、迷いなく話し始めた。