「灯澄さん、お願いします」
「分かった」

 まず、何から伝えるべきか――灯澄は内で呟き、一拍の間を空けた。

「日向、まずお前の位置から話そう。自身の立ち位置を知らなければ進む方向さえ分からないだろう。何を考え、何を決めるか、それを見誤らないためにもな」
「はい」

 日向の惑いのない返事に頷き、灯澄は先を続けた。

「月代には日愛のことを秘していたが、日愛と月隠とのことは妖の世界では知られていることだった。話したように、日愛は天逆毎姫の血の者、妖の中でも一目置かれる存在。そして、それを治めた月隠の当主。しかも、月代家であるにも関わらず、月隠は妖と敵対していないという。月代の月隠家に天逆毎姫の天狗が居るという噂は瞬く間に広がった」

 燈燕、陽織、スズもまた黙って灯澄の話を聞いていた。この事は当然知っている。現にその場に、月隠に居たのだ。当時の状況のことは誰よりも分かっていた。

「その噂が何を生み出したか。スズのように日和と出会い慕う者、日愛を治めたことで恐れを抱く者、静観する者……反応はそれぞれだが、確実に生まれたのは月隠という存在そのものの意識だった。誰もが無視できない存在となったのだ。そして、おそらくそれは今も残っている」

 こちらを真っ直ぐ見つめ頷く日向に、灯澄は一拍の間を空けた。
 ここから先に話すことは、これからの事。灯澄は眠る日愛に一度だけ視線を落とし、口を開いた。