日愛を救った、そして、日向が当主としての覚悟を定めた。
大事なのはこれからだ。これから、我らはどんな道を歩んでいくか。どうしていくか――
陽織は涙を拭い、燈燕も笑って日向を見つめる中、灯澄は一人腕を組んだ。嬉しい気持ちに浸りたいが、まずは急いでしなければならないことがある。あまり待たせるのも悪い。待ちくたびれているだろう。
「日向、お前に一人紹介したい者がいる。入れ」
「――はい」
奥から声が聞こえ、陽が射す障子に人影が写りゆっくりと進んでくる。やがて影は立ち止まり、座ると同時に障子をスッと開けた。
「失礼します」
長い黒髪の少女――日向と同じくらいの年齢だろうか、巫女服のような白い着物と紺袴を纏った少女は優雅に一礼すると黒真珠のような瞳を日向に向け微笑んだ。
チリン――と、
少女は髪を結んでいる紅の紐の先にある小さな鈴と、同じく袂の先へと付けている鈴を僅かに鳴らしながら部屋へと入り、障子を閉めてから再び日向へと向き直る。
「こやつの名はスズ。鈴彦姫が妖。神霊を降ろす神具、神を慰め迎える神楽舞の鈴。天岩戸で舞った天鈿女命にも語られる鈴の付喪神だ」
「スズと申します、日向様。お会いできる時を楽しみにしておりました」
「城守……いえ、月隠日向です」
少女の笑顔に、名乗るのに慣れておらず言い直してから日向もまた微笑を返した。
「本当にそっくり……姿だけではなくその内も。ようやく、こうしてお会いできました」
「すまぬな。世話をかけた」
「いいえ、楽しかったです。日向様に見つからぬよう、隠れてお世話をするのは」
「では、あなたがこの家を綺麗にしてくださっていたのですね」