静寂――その間、日向は何を思ったか、胸の内に何を芽生えさせたか。覚悟は先ほどの瞳で示している。
そして、日和――自分の本当の母のことを知り、月隠という自分の家も知った。月代を、上首を知った。日和と妖、自分と妖ということも知った。
城守日向ではなく、月隠日向と知った――そう、今がその時なのだろう。
「お母さん、ありがとうございます」
――日向は陽織へとお礼を伝え、深々と頭を下げた。
「私をまだ『母』と呼んでくれるのですか」
「十四年の間、お母さんはわたしを守り育ててくれました。お母さんは、お母さんです」
「日向……ありがとう」
涙を溜めてお礼を言う陽織へにこりと微笑み、そして、一度だけ瞼を閉じる。
今がその時――月隠日向と変わる時。
「陽織お母さんと、日和さん――日和母様。わたしの母は二人です」
日向は静かに瞳を開け、小さく、だけれど、凛と言葉を発した。
それは、女として学生として生きてきた城守日向ではなく、男として当主として生きていく月隠日向として――日向は言葉を続けた。
「わたしは、日和母様の心を受け継ぎます」
それは、日向が自らの一生を決めた宣言だった。生涯を懸けて貫く誓いだった。
「妖と人が共に生きていけるように、その間に立ち、両方に手を差し伸べます」
日向の発した言の葉に、深々と響いた音律に、三人――灯澄、燈燕、陽織は自然と姿勢を正していた。
全てを受け止め、そして、覚悟し誓い、宣言した。日向の、月隠当主としての言葉として。迷いや惑いはすでになかった。自分たちの覚悟はもうすでに決まっている。
「でも、それはわたし一人の力では叶いません。ですから、お願いします。お母さん、灯澄さん、燈燕さん、どうか力を貸してください」
「無論だ」
「我ら二人、お前について行こう」
日向が誓うのなら、自分たちもまた誓おう。仕え支える――そのことをもう一度誓う。
日向の願いに灯澄と燈燕は応え、陽織もまた頷いた。
「ありがとうございます」
日向はお礼を伝え、ふわりと微笑む。
日和は灯澄、燈燕、陽織へと最後に「ありがとう」と感謝を伝え、そして、日向は灯澄、燈燕、陽織へと「ありがとう」と感謝を伝え始まる。
今からが、これからが本当の始まり。
月隠日向の人生の始まりだった。