――全ての話が終わり、灯澄は知らず握っていた拳を解いた。死を看取れず、その間際までも知ることができなかった。ようやくにして僅かでも伝え聞けたのは、日和と別れて一ヶ月の後。三尊月弥音から陽織へと忍んで送られた文からだった。
 激情に流され、怒りに心が乱されるは十四年経った今でも少しも変わらない。だが、怒り恨みを日向に押し付けることはしたくはなかった。それは、日和の願いではない。

「――――」

 話を聞き終え、日向は僅かに視線を落としたまま無言でいた。その顔に、感情は表れない。しかし、その内はどうか。悲しみか、驚きか、怒りか――

「――灯澄さん、ありがとうございます」

 どれくらいの時間だったか――日向は視線を上げると灯澄にお礼を伝え、頭を下げた。
 その視線に、

「…………」

 灯澄は心が動くのを止められなかった。思えば――そうだ、まったくの同じ。日和を最後に見たあの時――日和は雪のように真白き着物を纏い、布団の上に座り日愛を抱いていた。
 あの時の日和の視線、今の日向の視線。まったくの同じ――迷いのない真っ直ぐな瞳。その燐とした煌めき、奥に宿る凛とした強さ。
 日向には悲しみも驚きも怒りもない。ただ一つあるのは、信念を定めた、純粋な覚悟の瞳だった。

「――父のことを聞いてもいいですか」

 向けられる日向の視線に、心に浮かぶ悲しみと苦しみの情を抑えながら陽織は口を開いた。

「月隠先々代当主、あなたのお父上は上首から無理な妖討伐を命じられ続け……亡くなりました」
「妖にですか?」
「いいえ、重なった傷により動けぬ身となり、病に冒されそのまま……日和様と私、月隠の皆で看取りました」
「そうですか」
「妖も捕らえにきたといわれれば抗うは当然。戦いが本心でなくとも、それは仕方のないことだった。互いに望まぬ戦いであっても」
「わかっています」

 陽織の後に話を続けた燈燕に日向は静かに頷いた。日愛の頭に優しく手を添えたまま――そのまま何を言うわけでもなく、日向はただ視線を落としたまま日愛を見つめる。