これからの詮議、果たして上首は何を問うてくるか。妖に関する詮議と、自分の処遇。覚悟はすでに在る。果たして上首は……
――そう日和が考えを巡らせたその時だった。
「今、捕らえている妖の全てを殺せ」
「っ!」
「聴こえなかったか。命は下した。返事をしろ」
あまりの突然の物言いに、日和は息をするのも忘れ上首から視線を外せなくなっていた。
それは考えていなかった言葉だった。妖と共に生活していることを責められ、月隠家を、自分を処分するつもりだと考えていた。それが、初めに妖を殺せとは――
日和は静かに瞳を閉じると、スッ――と息を吸った。
「――――」
一呼吸――自身が間違っていなかったことにより覚悟を強め、そして、日和はゆっくりと瞳を開けると凛と言葉を発した。
「命に服しかねます。お断り申し上げます」
「…………」
周囲がざわつくなか、清衡は黙っていた。話が終わったように――または、これ以上話すことを汚らわしいと思っているのか――肘掛に身体を預け、側仕えの一人に視線を向ける。
その意を悟り、視線を向けられた側仕えの男が変わりに話を続けた。その声に怒りを含め、脅すように日和へと言葉を向ける。
「月代一族が何故生まれたか。その意を知らぬようだな」
「分かっております」
「分かっていて、妖を殺せぬというのかっ!」
男は一歩踏み出し、怒鳴り声を上げた。傍から見れば、誰もが月代家の言い分が正しいと思っただろう。だが、日和に些かの惑いも恐れもなかった。動かず、変わらず、静かに透き通った鈴のような音律を言葉と共に鳴らした。
「はい、わたしは妖を殺すことはいたしません。どなたの命だったとしても絶対に」
「……なるほど、月代の意に反し、謀反の心があるとみた」
男は清衡へと顔を向け、伺った。清衡は相変わらず黙っている。が、元より決められていたことだったのだろう。話している側仕えの男は日和の後ろに立っている朔月家の者に迷わず命じた。
「こやつを殺せ。妖は、こやつの後にゆるりと殺すことにしよう。月隠の者は全員捕らえよ」
「お待ちください」
「なに、今になって命乞いか。お前が妖を殺す気になったか」
「妖は、もう居りません」
「何だとっ!」
男は怒りの声を上げ廊下から庭の砂利の上へと降りると、日和の髪を掴み顔を上げさせた。