共も連れず、一人で訪れたことは意外に、そして、異様にも映ったようだった。対した門番から訝しい視線を送られながら日和は屋敷へと――月代家第一席、上首の居る朔月家《さくつきけ》へと入っていく。

 ここへ来るのも三月ぶり。その前は、妖退治の命を受けるため度々訪れていた。とはいえ、大小母様がお亡くなりになって以降、敷居から前へと入ったことはなく、いつも外れに案内され砂利の上での面談となっている。もちろん、砂利に座るは日和だけで、朔月家の者は屋敷から命じるのだが。

 変わらぬ案内で、いつもの場へと辿り着く。
 しかし、

「――――」

 日和は自然と心をもう一度整えた。変わらぬ砂利の地、変わらぬ屋敷、変わらぬ朔月の人々――その中に、一人だけいつもと違う人物が居た。
 日和は砂利の上に正座し、頭を下げる。こちらから、言葉を話してはならない。相手からの言葉を待ち、それまでは頭を下げねばならない。

「……久しいな、二回目となるか。月隠の当主よ」
「はい」

 かけられた声に返事を返し、日和は一時の間を空け、頭を上げた。会うのは二度目となる。
 朔月家当主であり、月代十一家の中心である上首――朔月(さくつき)清衡(きよひら)
 普段のものだろう。簡単な――といっても、一見して分かるような豪華なものだったが――着物を纏い胡坐をかいたまま、部屋の畳から日和を見下ろしていた。千早を羽織、術衣を纏っている正装の日和とは全く異なり、その服装にも態度にも少しの礼もない。病への労わりも当然なかった。

 もちろん、そんなことで腹を立てるようなことはない。が、どうしても大小母様と比べてしまい悲しくもなってしまう。月隠に対してだけの態度とは分かっていても、慕われる上首でなければ月代家全体が不幸になる。
 そして、それを諌める者も少ないことになお悲しみが増した。その悲しみに、自身の力の無さも加えて。

「…………」

 視線を逸らさず見つめる日和に対し清衡はどう思っているのか――言わずもがなだった。苛立ちと憎しみ、あらゆる負の感情が宿った瞳で日和を見下ろしている。面白くもなく、面倒そうに。