「…………」

 燈燕は黙った。言葉を発せなくなってしまった。日和の瞳に、声に、その信念に。
 宿っていた黒焔の瞳と空気を散らせ、飛燕は僅かに俯き力なくその場へと座る。悔いるように、悲しみの情を浮かべて。

「……済まない、日和」
「いえ……わたしこそ、大きな声をだしてごめんなさい。燈燕さんのお気持ち、ありがたく思っています」

 日和も表情を変え、ふわりと微笑んだ。燈燕の気持ちが分かっているからこそ、願い伝える。

「でも、お願いです。わたしのためというのなら、そんな悲しいことを仰られないでください。わたしは皆さんに優しく在ってほしい、笑顔でいてほしいのです」

 ――でも、その笑顔を無くしているのは自分のせい――だから――

「灯澄さん、燈燕さん、これから先も御迷惑をかけるかと思いますが、宜しくお願いいたします」

 ――だから、自分一人で全てを終わらせる。

「――――」

 灯澄と燈燕、陽織も日愛も願う日和に何もいうことができなかった。

 ――もう、成す術はないのか。日和一人に背負わせる以外は――

「……分かった」

 灯澄一人、全てを飲み込んで頷いた。これ以上の話は悲しみを重ねるだけ……ならば、日和の覚悟を受け取ることが、報恩であり心に応えること。
 ――そう、言い聞かせた。

「ありがとうございます」

 灯澄の言葉にニコリと微笑み、日和は陽織へと視線を向けた。

「陽織、あなたには迷惑をかけてばかり」
「日和様、そのような……」
「ううん、最後の最後まで……そして、これからもわたしは、いえ、我ら親子はあなたに頼らないといけません」

 陽織とはこの数日、弥音からのお見舞いの文が届いてから何度も話していた。陽織の涙が枯れるほどに幾たびも幾たびも――月代家のことを知っているからこそ、陽織は誰よりも一番強固に反対した。
 逃げようと日和に伝え、その準備まで進めた。だが、日和は動くことなく陽織を諌め、そして、自分の全てを伝え託した。

 今でも納得はしていないだろう――だが、分かってくれていることは誰よりも日和が知っていた。信じていた。だからこそ伝え、託したのだ。心を、想いを。そして、これからの未来を。