一つは前当主でもある夫が妖退治の最中、深い傷により病にかかり命を落としてしまった事――そして、もう一つは、大小母様がお亡くなりになってからの月隠家の状況だった。
 当主になれば、重い苦しみをも背負わなければならない。その為、家の者に害が及ばぬよう、日和は自ら願って当主となったのだ。

 月代十一家は男性優先。日和が当主に就くという話にも当然反発はあったのだが、強固な妨害もなく日和も押し通した。現第一家上首にしてみれば、どちらにせよ月隠家を潰すつもりで考えているので、誰が当主に就こうとあまり意にかいさなかったのかもしれない。むしろ、女当主ということで潰しやすいと考えたのかもしれない。
 ともあれ、月隠家に居た主な男性のほとんどは妖退治で命を落としていた。それを知り月隠から離れた者、そして、日和が強いて家から離した者達がいる。そうして今は月隠には男は居ない家となっていた。

 日和に仕え家を支える女性六人――陽織以外は戦う術を知らない六人。月代家の役目は妖退治。その命が果たせぬとなれば、家の末路は押して知るべしであった。
 取り潰しとなるのも時間の問題であろう――月隠家以外の人間の全てがそう考えていただろう。しかし、そこへ一人の赤子が産まれる。

 次期当主となる男の子。日和の子――日向。

 赤子が産まれたことは秘していた。日和が男子を産んだとあれば、上首である第一家がどう動くか分からない。
 次代の当主、しかも男の子。幼き赤子にまさかとは思う――が、それでも用心せねばならぬ悲しさを日和は感じていた。我が家を憎む上首が何をするかは分からない。家の衰退を早めようと我が夫だけでなく、家の男子を全て害そうとした……いや、現実に害した上首ならば。

「ごめんなさい……日向」

 口に出し、心でも囁いて幾度も日和は謝っていた。籠の中の鳥のように外へ出せないことを、陽の閃光を浴びさせられないことを。
 愛しき我が子へと――弱き自分を見せられるのは赤子の日向だけ、その悲しき微笑を向けて。