――十四年前。
「――――」
真白き衣に包まれすやすやと眠る我が子を抱き、日和は眼を細め優しい微笑を向けた。
月隠家の一室は綺麗に整えられていた。障子から照らされる白き閃光が静寂に包まれた室内を満たし、その部屋に臥せる主人を労わるように、花が飾られ香が焚かれ、細かな心遣いが隅々まで行き届いている。
布団の上で身を起こし赤子を抱く日和は純白の羽織を肩にかけ、同じく真白き雪の着物を着ていた。病に臥せる姫の如く――というと大きくは外れてはいない。赤子を産んで十日、日和の調子はすぐれず今だ床に臥せる日々が続いていた。
「皆に迷惑をかけている」と日和は申し訳なく思うが、月隠の皆は誰一人迷惑などとは微塵も思っていない。むしろ休まれてほしいと願っていた。
「今までの疲れがでたのでしょう」と陽織は話し、日和の傍から片時も離れず世話をしていた。起き上がり、何かと手伝おうとする日和を強いて寝かせ、この機にゆっくり休んでもらうつもりでいた。
陽織がそんな気持ちになるのも無理はない。月代家上首からの無理難題――日和はその全てを赤子を身篭ったまま受けていたのだ。
更に加えるなら、赤子を身篭ったことをも隠しつつ――その為、産まれた赤子を屋敷の外へと出すことも気をつけなければならなかった。理由あってのこととは日和自身分かっていても、赤子に心で謝った。外の景色を見せてあげられないことを、自由がないことを。
月隠家、いや、日和の立場は日が経つにつれ悪いものへと変わっていった。そして、上首からの命が多くになるにつれ――仕方がないことと思い、日和も責めることは決してないが――反比例するように月隠の人は去っていった。
三十人はいた家は、今は日和、陽織を含め僅か八人しかいない。大きな屋敷には少なすぎる人数。妖のほうが多いのであれば、妖の家といわれてもしょうがないことでもあった。
八人の住人。その全ては女性だった。だが、月代十一家も世の流れと変わりなく男社会である。先々代当主の大小母様が特別で、基本は全家男の当主が座っていた。そんな中で日和が当主に就いたのには様々な理由があった。