「ありがとう、日愛を救ってくれて」
「…………」

 灯澄と燈燕、二人の姿に――日向は静かに瞳を閉じた。日向もまた、誓い改め直さなければならないと感じたからだ。
 灯澄と燈燕、そして、母も。日向もまた三人が居たからこそ日愛を救うことができた。もし、自分ひとりであったなら何もできなかっただろう。三人の想いが、いや、日愛も合わせて四人の想いがあればこそ日向は今、この場に居る。
 想いを受け止めること――その覚悟を誓う。もう一段深く、強く、自身の全てを懸け誓う。
 ――日向は静かに瞳を開けた。

「灯澄さん、燈燕さん。顔を上げてください」

 声に二人は頭を上げ、日向へと真っ直ぐに見つめた。

「お礼をいうのはわたしのほうです。灯澄さん、燈燕さん、お母さん、ありがとうございます」

 日向は頭を下げ、優しく微笑んだ。

「皆さんがいなければ、わたしも無事では済まず日愛も救えなかったでしょう。皆さんが居たから、わたしもここに居ることができます。本当にありがとうございます」

 その言葉に、その眼差しに、灯澄、燈燕、陽織は震える心を抑えることができなかった。理由は分かっている――言葉も声も瞳も、心も姿も、まるで蘇ったのかと思うほどに瓜二つだったからだ。
 日向の母――仕えていた当主に。

「灯澄さん、お聞かせください」

 ――できる、できないではない。自分に器があるとも、使命があるとも、運命だとも思わない。想いがあるならば、それに応える。その一念だけを持ち、日向は澄んだ瞳を向けた。

「当主のお話――わたしの母のことを」

 日向の瞳に、陽織は膝の拳を握った。喜びか悲しみかは分からない。ただ、時が来た……来てしまった。
 燈燕の視線の確認に灯澄は僅かに頷いた。日向の誓いは受け止めた。我らの覚悟も揺ぎ無い。ならば、もう迷うことも惑うこともなかった。

「わかった」

 灯澄は日向へと視線を合わせ、静かに口を開く。

「全てを話そう。月隠(つきごもり)の当主のこと――日和(ひより)のことを」