――目覚めると、ぼんやりとした視界に知らない板の天井が映った。

 どこだろうと思う――が、意識と視線がはっきりするにつれ知らない天井というのは間違いだと気付いた。知らないわけではない。ただ数回しか見たことがなかったため、すぐに思い出せなかっただけだ。
 胸に重さを感じ、俯こうと首を動かす。が、身体の痛みに思うように動けず僅かに顔をしかめ、それから視線だけを向けた。

「――――」

 可愛らしい幼子が柔らかな頬を自分の胸に当てて、着物を握り静かな吐息をたてて眠っていた。

 ――ああ、良かった。

 日向はその幼子――日愛の寝顔を見て柔らかく微笑んだ。触れた身体から暖かな温もりと鼓動が伝わってくる。衣は着替えたのか術衣ではなく、綺麗な蒲公英色の着物を纏っていた。握っている手も、安らかな寝顔にも傷一つない。そのことに心から安心する。
 本当に良かった――こうして近くで愛しい子を見れたこと、触れ合えていること、温もりを感じれること。そのこと全てに感謝した。

「目覚めたか」

 横から声が聞こえ、日向は顔を向けた。見ると、灯澄が正座してこちらを見つめている。ほっとしたように微笑を向けて――それは日向も初めて見る灯澄の表情だった。

「灯澄さん……」

 その表情で自分が心配をかけていたことを知り、そして、すぐに灯澄に気付けなかったことに気恥ずかしさも感じ、日向は日愛を起こさないように静かに身を起こそうと身体を動かした。が、すぐに灯澄が優しく手で制し止める。

「動かないほうがいい。右肩と左腕は折れ、身体にも深い傷を負ったのだ。血もだいぶ流れている。大人しくしていろ」
「……すみません」
「謝らなくていい。もう少しすれば、自らで癒しの力も使えるだろう。それまでの辛抱だな」

 灯澄に言われるまま日向は枕に頭を置いた。確かに身体の痛みはある。が、自分のことよりも灯澄を見た事で別の心配が起こり、日向はすぐに問いかけた。

「皆さんは? 怪我は大丈夫ですか?」
「我らか? なに、お前に比べれば大したことはない。燈燕も陽織も無事だ」
「そうですか……良かった」
「…………」

 自分のことよりも他人のことを気にかける。日向らしいその姿に灯澄は苦笑した。

「そうだな、お前が目覚めたことを知らせてこよう」

 灯澄はそういって立ち上がった。