「わたしが、いるから……もう離れたりしないから」

 どんな痛みでも構わなかった。日愛に触れられるのなら、日愛を受け止められるのなら。
 だから、一つだけ願う。意識が途切れないように、ずっと日愛に微笑を向けられるように。

「日愛と、ずっと一緒に居る……だから」

 日向は、日愛の頬を優しく撫で、指で目尻を拭った。

「だから、もう大丈夫だよ」
「――はは、さま」

 一つ、二つと――
 日向の頬に雫が落ちた。
 愛しい幼子の涙――日愛の心の雫が。

「大好きだよ、日愛」

 頬に触れていた右手を頭に回し、抱き寄せた。難しいことじゃない。母が子にしてあげるのは、大好きと伝え抱きしめるだけでいい。
 きっと――きっと自分を産んでくれた母も、そして、日愛が『ははさま』と呼び求めた母も同じようにしてくれたに違いない。それは理由のないことだったけれど、確かな気持ちと共に心に浮かんだ。

「ははさま――」

 自分のすぐ近くで日愛が呼ぶ。頬と頬が触れ、涙と優しい暖かさが伝わってくる――もうその時には、肩と腕に食い込んでいた日愛の手の力も抜けていた。
 ぎゅ――と抱きしめる。そして、あやすように愛するように頬をすりよせた。日愛も甘えるように「ははさま、ははさま――」と呼び求め日向へぎゅっと抱きつく。

「――日愛」

 日向は小さく囁き――そして、瞳を閉じた。
 日愛の温もりと感じたまま、愛しき子を抱きしめたまま――優しい微笑を浮かべ眠るように。
 泣きつかれたのか、日愛もまた日向に抱きついたまま静かな吐息を立て始めた。安心したように、甘えるように。

 本当の母娘のように、天女のような幼き少女二人は安らかに眠りにつく。
 互いに抱きしめたまま、ずっと離れず―――