ただ一つ、石川梨沙と違うのは、彼は僕に対してはあまり好意的な態度を取らないという所だった。
野球部員は僕とあまり一緒になりたくないのか、極力被らせないようにシフトを調整していた。しかし僕は一週間のうちに四回は出勤をするので、何日かは一緒になった。その度に彼は、冷たい表情で僕と接する。冗談を言ったり、おだてたりはしなかった。
淡々と業務をこなし、先輩である僕から注意を受けると目も合わせずにすいませんと謝った。言葉には一切の感情が込められていなかった。
謝罪や感謝だけではなく、僕に対しての彼の言葉には、軽蔑も、嘲りも、どの感情も乗らなかった。人が鉛筆に微笑みかけたりしないのと同じような、どこまでも機械的な反応をするのだ。さらに言うなら、彼は、僕に話しかけることすらも躊躇している節があった。何かを尋ねる時は、いつも僕以外の人間を頼った。僕に話しかけるくらいなら、機嫌の悪い店長と言葉を交わす方がマシだと言いたげだった。
自然なことなのだが、僕の方も彼とシフトを被らせないよう調整を始めていった。野球部員は出勤日数が多かったので、曜日をずらすだけでは限界があった。
ついに僕は、一週間のうち働く日を三日に減らした。今までで一度もなかった変更で、店長には何故かと理由を訊かれた。僕は大学受験に備えるための時間を確保したいのだと言った。
嘘と見破られたかはわからないが、とりあえず店長には了承してもらえた。苦渋の決断だったが、おかげで野球部員と顔を合わせる機会は無くなった。そしてシフトを減らすという選択は、後になって考えれば間違いではなかった。
その頃の僕は、何度か別のアルバイトを始めようかと検討を繰り返していた。石川梨沙がいなくなっては、仕事が少しも楽しくないからだ。
残されているのは、店長と野球部員。他の学生や主婦たちと話をするのももちろん楽しかったが、石川梨沙という人間ほど魅力があるわけではない。
プライベートでは特にお金をたくさん使うわけではないのだし、無理をしてまで稼ぐ必要性はない。シフトを減らして自由な時間を作るというのは、体力的にも、精神的にも良い方に働くのは明確だと言える。
アルバイトの頻度を減らしてしばらく経つと、自分の心の中のストレスが幾分減少したことを実感した。野球部員が視界に入ることは完全になくなったし、店長の相手をする回数も減った。アルバイトが負担になりすぎないラインを見定められたのだと気づいた。
出勤日を減らせば、空いた時間を好きに使える。僕は貯まったお金を財布にしまって、放課後に友人たちと遊んで過ごした。それまで断っていた誘いを受け、カラオケに行き、ボウリングに行き、一人では入れそうもない店で食事をした。
そういう過ごし方をして二週間ほどが経つと、銀行の残高が目に見えて減少していった。遊びすぎたのだ、と僕は思った。調子に乗って、お
野球部員は僕とあまり一緒になりたくないのか、極力被らせないようにシフトを調整していた。しかし僕は一週間のうちに四回は出勤をするので、何日かは一緒になった。その度に彼は、冷たい表情で僕と接する。冗談を言ったり、おだてたりはしなかった。
淡々と業務をこなし、先輩である僕から注意を受けると目も合わせずにすいませんと謝った。言葉には一切の感情が込められていなかった。
謝罪や感謝だけではなく、僕に対しての彼の言葉には、軽蔑も、嘲りも、どの感情も乗らなかった。人が鉛筆に微笑みかけたりしないのと同じような、どこまでも機械的な反応をするのだ。さらに言うなら、彼は、僕に話しかけることすらも躊躇している節があった。何かを尋ねる時は、いつも僕以外の人間を頼った。僕に話しかけるくらいなら、機嫌の悪い店長と言葉を交わす方がマシだと言いたげだった。
自然なことなのだが、僕の方も彼とシフトを被らせないよう調整を始めていった。野球部員は出勤日数が多かったので、曜日をずらすだけでは限界があった。
ついに僕は、一週間のうち働く日を三日に減らした。今までで一度もなかった変更で、店長には何故かと理由を訊かれた。僕は大学受験に備えるための時間を確保したいのだと言った。
嘘と見破られたかはわからないが、とりあえず店長には了承してもらえた。苦渋の決断だったが、おかげで野球部員と顔を合わせる機会は無くなった。そしてシフトを減らすという選択は、後になって考えれば間違いではなかった。
その頃の僕は、何度か別のアルバイトを始めようかと検討を繰り返していた。石川梨沙がいなくなっては、仕事が少しも楽しくないからだ。
残されているのは、店長と野球部員。他の学生や主婦たちと話をするのももちろん楽しかったが、石川梨沙という人間ほど魅力があるわけではない。
プライベートでは特にお金をたくさん使うわけではないのだし、無理をしてまで稼ぐ必要性はない。シフトを減らして自由な時間を作るというのは、体力的にも、精神的にも良い方に働くのは明確だと言える。
アルバイトの頻度を減らしてしばらく経つと、自分の心の中のストレスが幾分減少したことを実感した。野球部員が視界に入ることは完全になくなったし、店長の相手をする回数も減った。アルバイトが負担になりすぎないラインを見定められたのだと気づいた。
出勤日を減らせば、空いた時間を好きに使える。僕は貯まったお金を財布にしまって、放課後に友人たちと遊んで過ごした。それまで断っていた誘いを受け、カラオケに行き、ボウリングに行き、一人では入れそうもない店で食事をした。
そういう過ごし方をして二週間ほどが経つと、銀行の残高が目に見えて減少していった。遊びすぎたのだ、と僕は思った。調子に乗って、お