きく背伸びをしてから、モニターの方へ目をやった。テーブルの上に肘をついて、掌で頭を支えた。小さなあくびを一回してから「お客さん来ないわね」と退屈そうに呟いた。
 僕も少しの間、彼女と同様にモニターを眺め続けた。時折、そばに置いてある時計の針の進み具合を確認したが、時間はちっとも進んでいるように見えなかった。人間では察知できないほどの微妙な速度の変化をつけて、針は時を刻んでいるように感じられた。
 しばらくの間、部屋全体に沈黙が降り注ぎ、耐えかねた僕がそれを破った。
「つまり、石川さんは、極力辛い思いをしないように、ここに残り続けているっていうことですか?」
 彼女は黙って僕を見つめた。直前まで続けていた会話の内容を思い返しているように見えた。
 そして、言った。
「一つには、そういうこと。せっかくあの店長さんとも仲良くなれたし、やってみたら意外と楽しいし。最初は、折を見て辞めることも選択肢にあったの。結局、気がついたら変えたく無いものの一つになっちゃってた」
「他にも、理由はあるんですか」
「ええ、あるわよ。もう一つだけ」
「それは、なんですか」
 僕が訊くと、石川梨沙は分かりやすく顔をしかめた。
「わからないの?」
「はい。正直、見当もつきません。今日話してみただけでも、あなたは十分理解するのが難しい人だということがわかったんです。納得できる部分もありはしますけどね。この仕事を辞めたら末代まで祟られるから、なんて話を真剣な顔で聞かされると信じてしまいそうな気がするんです」
「あなたって、本当正直な人よね」
 おかしそうに彼女は笑った。
「それで、もう一つの理由ってなんですか?」
 僕は再び尋ねた。すると彼女は、何かを考えているそぶりを見せた。そしてほとんど出し抜けにこう言った。
「私はあなたのことが好きなの。一緒にいたくて、この仕事を続けてる」
「からかわないでください」
「本当よ。私、あなたのことが好きなの。正直な話、高校の頃からよ。なんだか話をしていて、とってもいい子だな、正直だな、面白いなって思ってたの。でも、今この瞬間まで、思いを口に出せなかったの。私の話、信じる?」
 彼女は感じの良い笑みを浮かべ、僕の目をしっかりと見つめていた。その瞳からは、おおよそ冗談に感じられない何かがあるのだということ