そんな具合なので、面接に合格をして半月ほどが経過すると、業務に対しての感興は跡形もなく消え失せてしまった。
それにもかかわらず、高校卒業まで継続できたのにはやはり相応の理由というものがある。それは単に僕が気弱な人間で、辞める機会を見出せずにいるということではない。この話を一〇人の人に聞かせて、全員が賛同するわけではないだろうが、少なくとも約半分の人間は頷いてくれるに違いないという訳があるのだ。
理由というのは、同じアルバイトの先輩にあった。
同じ高校の一つ上の先輩で、整った顔をした女子生徒だった。いかにも男子から人気を集めそうな、大人びていて綺麗な人だ。どこかのファッション雑誌のモデルでもやっているのではないかというほどのスタイリッシュな体をしていて、あらゆる意味において店長とは対極に位置している。
彼女の名前は、石川梨沙といった。顔が良ければ、その内面も良い。
お客さんとはもちろん、労働仲間たちとも分け隔てなく接することができる。あの店長とさえ、良好な関係を構築できていた。ことあるごとに冗談を言っては、彼を笑わせてみせるのだ。猛獣を手懐ける技術に長けた人物なのである。
そんな石川梨沙とは、出勤するたび顔を合わせていた。不思議とシフトの被る日が多かった。
彼女はいつも僕より遅く店にやってくる。僕が駐車場の端に自転車を停め、アルバイトのための制服に着替えた頃バックヤードに入ってくるのだ。まるで、僕の着替えにタイミングを合わせたみたいに。
僕が挨拶をすると、石川梨沙も気持ちの良い、さわやかな挨拶を返してくる。そして二言目には、僕になんらかの質問をする。大半が、学校についての質問だった。
試験の点数はどうだったとか、普段学校ではどうやって過ごしているかとか、そういったものだ。
彼女はバックヤードに入ると必ず、僕に質問をする。質問をせず業務に取り掛かるのは困難だというくらいだった。
僕は学校での事を訊かれて不機嫌になったりはしないので、嫌な顔はせず素直に答えていた。昨日の試験は散々な結果だったとか、クラスメイトとくだらない話で盛り上がっているのだと伝えた。
こちらがどれだけつまらない内容を語っても、彼女はしっかりと耳を傾けていた。時折手を叩きながら笑う場面だってあった。すごく楽しそうに聞いているので、僕には自分でも気づけていない話術の才能があるのではないかと錯覚するほどだった。
何故石川梨沙という人間は、ここまで僕なんかの話を聞きたがるのか。不思議に思いながら話を終えると、彼女は満足したように息を吐いた。人気お笑い芸人の漫才でも聞いた後のように。
いつもそのような反応を見せていたのだが、その度に僕の頭には疑問符が浮かんだ。どうしてこんなつまらない話で笑顔になれるのだろう
それにもかかわらず、高校卒業まで継続できたのにはやはり相応の理由というものがある。それは単に僕が気弱な人間で、辞める機会を見出せずにいるということではない。この話を一〇人の人に聞かせて、全員が賛同するわけではないだろうが、少なくとも約半分の人間は頷いてくれるに違いないという訳があるのだ。
理由というのは、同じアルバイトの先輩にあった。
同じ高校の一つ上の先輩で、整った顔をした女子生徒だった。いかにも男子から人気を集めそうな、大人びていて綺麗な人だ。どこかのファッション雑誌のモデルでもやっているのではないかというほどのスタイリッシュな体をしていて、あらゆる意味において店長とは対極に位置している。
彼女の名前は、石川梨沙といった。顔が良ければ、その内面も良い。
お客さんとはもちろん、労働仲間たちとも分け隔てなく接することができる。あの店長とさえ、良好な関係を構築できていた。ことあるごとに冗談を言っては、彼を笑わせてみせるのだ。猛獣を手懐ける技術に長けた人物なのである。
そんな石川梨沙とは、出勤するたび顔を合わせていた。不思議とシフトの被る日が多かった。
彼女はいつも僕より遅く店にやってくる。僕が駐車場の端に自転車を停め、アルバイトのための制服に着替えた頃バックヤードに入ってくるのだ。まるで、僕の着替えにタイミングを合わせたみたいに。
僕が挨拶をすると、石川梨沙も気持ちの良い、さわやかな挨拶を返してくる。そして二言目には、僕になんらかの質問をする。大半が、学校についての質問だった。
試験の点数はどうだったとか、普段学校ではどうやって過ごしているかとか、そういったものだ。
彼女はバックヤードに入ると必ず、僕に質問をする。質問をせず業務に取り掛かるのは困難だというくらいだった。
僕は学校での事を訊かれて不機嫌になったりはしないので、嫌な顔はせず素直に答えていた。昨日の試験は散々な結果だったとか、クラスメイトとくだらない話で盛り上がっているのだと伝えた。
こちらがどれだけつまらない内容を語っても、彼女はしっかりと耳を傾けていた。時折手を叩きながら笑う場面だってあった。すごく楽しそうに聞いているので、僕には自分でも気づけていない話術の才能があるのではないかと錯覚するほどだった。
何故石川梨沙という人間は、ここまで僕なんかの話を聞きたがるのか。不思議に思いながら話を終えると、彼女は満足したように息を吐いた。人気お笑い芸人の漫才でも聞いた後のように。
いつもそのような反応を見せていたのだが、その度に僕の頭には疑問符が浮かんだ。どうしてこんなつまらない話で笑顔になれるのだろう