彼女の言葉の真意を掴み損ねて、僕は思わず眉をひそめた。
「変化が、嫌い? それはつまり、どう言うことなんでしょうか」
「言葉通りの意味よ。私は、変化というものが嫌い。特に、取り返しのつかなくなる変化は嫌い。一度変わってしまったら、もう元のようには戻せなくなってしまうから」
「すみません、言っていることが今ひとつわかりません。物を壊すことが嫌い、というわけではないんですよね?」
 僕が尋ねると、石川梨沙は首を縦に振った。「物を壊すのとは違う」と彼女は言った。僕の予想が間違いのないものだと誓いを立てるように。
「私の言っているのは、もっと抽象的なもの。目には見えないし、手で触れられないもののことよ。価値観とか、関係性とか、そういうもの。目に見えないものって、直しようがないでしょ? 元通りと言っても、変化する前と後で見比べたわけじゃない。誰がどうやっても、すっかり元通りとはならない。ひょっとしたら、歯車の間に細かい砂粒が入り込んでいて、それに気づかないままになってしまうかもしれない。たかが砂粒と侮っていたら、時の流れとともに大きな歪みとなってしまうかもしれない。良くも悪くも、不確定要素の多いものが少ないに越したことはないでしょう? だから私は、変化が嫌いなの」
「つまり、修学旅行に行かなかったのは、友達との関係性に何か無視できない影響が及ぼされるからということですか?」
「その通り。この町から出たことがないっていうのも、似たような理由よ。外に出て、自分の中に修正の効かない変更が生まれてしまったら、それはある意味での悲劇よ」
 自分が変わる兆しが見えることが、果たして悲劇と呼ぶに値するだろうか、と僕は少しの間考えてみた。たとえば僕が、想像の中で立ち寄った海沿いの町を実際に発見したら、どのような変更が僕の中に生まれるだろうか。その変更は一度行われたが最後、二度と元通りにならないものなのだろうか。
 そんなことはあるまい、と僕は思った。変化が時として悪い方向へと進んでいく原因になり得ることは間違いない。だが自分を良い方向へと導いてくれるのも、何かの変化が訪れた時でもあるのだ。僕はそのことを、これまでの人生経験で知っている。
「変化が時として、人を前へと進ませる原動力になることだってあります」
 と、僕は言った。
「それは確かにそうね。でも私には、とてもそうは思えないの。良かれと思ってやったことが裏目に出たことがあるし、思い切ってやってみたことが取り返しのつかない事故に繋がったことがあったの」
「そういう経験があるんですね」
「そうよ。自分の経験から私は、波のない穏やかな人生を送ろうって決めたの。ある時点で思い返してみた時、ああ、これまでの私の生活っ