「メーカーについては流石に詳しくないんだけど、じゃあ、緑茶をお願い」
 石川梨沙の言葉に、僕は顔を上げた。彼女の視線は、僕の手にしている物に注がれていた。僕が持っていたのは、緑茶の入ったペットボトルだった。
 僕は箱の中から緑茶を取り出し(僕のとは違うメーカーのものだった)、石川梨沙に渡した。彼女は短く礼を言って、早速キャップを開けて口をつけた。真似をするように僕も自分の緑茶を飲んだ。決して喉が渇いていたわけではないが、何かしら体を動かしていないと落ち着かない気持ちだった。
 キャップを閉めてテーブルの上にボトルを置くと、石川梨沙が倣うようにして同じ動作を行った。僕の緑茶の真正面に、彼女の選んだ緑茶が置かれた。
 二人して喉の渇きが潤うと、まるで示し合わせたように何も言わなくなった。石川梨沙はわずかに口角を上げて僕の方を見つめた。彼女の視線から逃げるようにして、僕は監視カメラのモニターに目をやった。 
 そこからしばらくの間、沈黙が流れた。店内よりはバックヤードの方が、沈黙が重く感じられた。見張られているような感触が全身を包んで、座り直すことも難しかった。
 沈黙は、およそ四分ほど続いた(モニターの隣にあった時計を確認する限りでは四分ほどで間違いがない)。静寂を破ったのは、石川梨沙の方だった。
「そういえば、徳田くんと会うのってかなり久しぶりよね」
 出し抜けに彼女は言った。仕方なくモニターと時計から目を離して、相手の方を向いた。
「かなり久しぶりです、いつぶりかな。半年は経ってますよね」
「いいえ、もっとよ。一年くらいになるんじゃない?」
 果たしてそうだったか、と僕は過ぎ去った年月のことを考えるふりをして、天井の隅を見やった。しかし実際には、彼女の言っている内容について、認識の齟齬が発生していないのは理解していた。彼女は僕と会うのが一年ぶりであることを覚えている。僕も、石川梨沙と再会するのに一年の月日が必要とされた事実について、とっくに思い当たっていた。それは、時間稼ぎのために行われた、言わば偽装された忘却だった。
「一年って、歳を重ねるごとに短くなっていきますよね。もう一年が経過していたなんて、今思い出していなければ気が付かなかったかもしれない」
 と、僕は言った。石川梨沙はおかしそうに笑った。
「人間って、外からの刺激になれるものらしいわ。毎日が同じ繰り返しだと、それに慣れてしまって時間の経過が早く感じるみたい」
「どこかで聞いたことがあります。つまり、僕はこれといって変化に富んでいない生活をこの一年送ってきたといことになるんでしょうね。僕