きるので、表に出るのは来客があった時だけでよかった。
店にあるパイプ椅子は長い間使われているらしく、所々が錆で茶色くなっていて腰掛けるとわずかに傾いた。僕が不満に思っていると、石川梨沙も「この椅子、本当座りにくいよね」と愚痴をこぼした。適当に相槌を打ちながら、部屋の隅にある段ボール箱からぬるいお茶のペットボトルを取り出す。賞味期限の切れたもので、廃棄するくらいなら従業員に配ろうと店長の用意した箱の中にある物だった。基本的に自由に取って行くことが許され、あまりに長い間放置されたものは廃棄される。
深夜勤に移動して最初の出勤でこの行いはどうなのだろうかとも考えたが、結局は退屈さに負けてキャップを回し、口をつけた。向いに座っている石川梨沙が、すぐに反応した。
「徳田くん、それずるいよ。私にも何か頂戴」
「もちろん。何がいいですか?」
僕は段ボール箱の中に目をやった。かなりの量の商品がそこにはあった。実に大小様々な商品たちを見ていると、果たして本当に捨てて良いものかと考えずにはいられない。
「徳田くんのセンスに任せるわ」
と、石川梨沙が言った。センスに任せる、と一言で言われても、箱の中にあるのは何も飲料水だけではない。お菓子やおにぎりや、弁当だって廃棄予定品として選び出されているのだ。今の彼女に最適な商品を的中させると言うのは、広大な山の中からペンで印を付けたどんぐりを探し出せと言われているに等しい。仮に僕が彼女の苦手な食べ物を引き当てたとして、彼女は怒ったりしないはずだ。しかし僕としては、一度で当たりを引きたい。今はできるだけ、石川梨沙という人物と関わりたくないから。
「欲しいのは、食べ物ですか? 飲み物ですか?」
「それも、徳田くんが決めて」
「困ります。ヒントも出してくれないなら、一つずつ取り出して見せて行くしかないじゃないですか」
「私としては、それで構わないわ。その方が確実じゃない」
「石川さんが商品を元に戻すなら僕は構いませんよ。でも、そうするくらいなら僕に頼む必要もない」
石川梨沙は小さく笑って「そうね」と言った。それから僕の手にしているお茶を一瞥してから「じゃあ、飲み物はある?」と、言った。僕は箱の中を目だけで確認した。何本かのペットボトルと、いくつかの紙パックの飲料があった。
「ありますよ、結構たくさん」
「じゃあ、その中からお茶を一つ、取ってもらえる?」
「何か具体的に、このお茶がいいとかありますか?」
「ないわ、そんなの。お茶はお茶でしょ」
「ありますよ。緑茶とか、麦茶とか。会社によっても味は変わってきます」
店にあるパイプ椅子は長い間使われているらしく、所々が錆で茶色くなっていて腰掛けるとわずかに傾いた。僕が不満に思っていると、石川梨沙も「この椅子、本当座りにくいよね」と愚痴をこぼした。適当に相槌を打ちながら、部屋の隅にある段ボール箱からぬるいお茶のペットボトルを取り出す。賞味期限の切れたもので、廃棄するくらいなら従業員に配ろうと店長の用意した箱の中にある物だった。基本的に自由に取って行くことが許され、あまりに長い間放置されたものは廃棄される。
深夜勤に移動して最初の出勤でこの行いはどうなのだろうかとも考えたが、結局は退屈さに負けてキャップを回し、口をつけた。向いに座っている石川梨沙が、すぐに反応した。
「徳田くん、それずるいよ。私にも何か頂戴」
「もちろん。何がいいですか?」
僕は段ボール箱の中に目をやった。かなりの量の商品がそこにはあった。実に大小様々な商品たちを見ていると、果たして本当に捨てて良いものかと考えずにはいられない。
「徳田くんのセンスに任せるわ」
と、石川梨沙が言った。センスに任せる、と一言で言われても、箱の中にあるのは何も飲料水だけではない。お菓子やおにぎりや、弁当だって廃棄予定品として選び出されているのだ。今の彼女に最適な商品を的中させると言うのは、広大な山の中からペンで印を付けたどんぐりを探し出せと言われているに等しい。仮に僕が彼女の苦手な食べ物を引き当てたとして、彼女は怒ったりしないはずだ。しかし僕としては、一度で当たりを引きたい。今はできるだけ、石川梨沙という人物と関わりたくないから。
「欲しいのは、食べ物ですか? 飲み物ですか?」
「それも、徳田くんが決めて」
「困ります。ヒントも出してくれないなら、一つずつ取り出して見せて行くしかないじゃないですか」
「私としては、それで構わないわ。その方が確実じゃない」
「石川さんが商品を元に戻すなら僕は構いませんよ。でも、そうするくらいなら僕に頼む必要もない」
石川梨沙は小さく笑って「そうね」と言った。それから僕の手にしているお茶を一瞥してから「じゃあ、飲み物はある?」と、言った。僕は箱の中を目だけで確認した。何本かのペットボトルと、いくつかの紙パックの飲料があった。
「ありますよ、結構たくさん」
「じゃあ、その中からお茶を一つ、取ってもらえる?」
「何か具体的に、このお茶がいいとかありますか?」
「ないわ、そんなの。お茶はお茶でしょ」
「ありますよ。緑茶とか、麦茶とか。会社によっても味は変わってきます」