すずが夫であった現村長から離婚を言い渡され、座敷牢に囚われてから、数日後。
黄泉還しの巫女としての役目を求められ続けることは監禁前と変わりはないが、食事は最低限になり、庭先に出ることもできなくなった。
青鬼の竜胆の姿を彷彿とさせる鹿に出会うことも出来ない。
村長の存命時よりも追い詰められた境遇に、彼女は心身共に疲弊している。
そして今、すずは元夫に乱暴に抑え込まれ、刃物を持った女に髪を強く引っ張られていた。
「い、痛いです……!」
「大人しくしなさいよ!」
「この女の不気味な髪なんて触りたくねえ! 早く切るぞ!」
巫女らしいと言う理由で伸ばさせられていた白い髪は、今度は彼らによって乱雑に切り落とされてしまう。
腰の長さまであった髪は、肩の辺りで不揃いになってしまった。
「う……。どうしてこんなことを……」
特に髪に強い思い入れはなかったが、自分の髪の束を紐で結んでほくそ笑むふたりの鬼のような所業に、すずがぞっとする。
いや、彼女の知る鬼のほうが、比較するまでもなく優しかった。
「売るのよ。黄泉還しの巫女の髪は、不老長寿の縁起物として十分だもの」
「俺は気味が悪いと思うんだがな」
「金になるんだったら、何だって良いじゃないの」
「それもそうだな!」
「次は何を商品にする?」
彼らは、すずを金の卵を産む鶏としか見ていない。
「こんなの……ひどい……」
笑い声をあげながらふたりが去っていく様子を、すずはポロポロと涙をこぼして見送るしかなかった。
「母さん、父さん……。会いたいよ……」
このまま座敷牢に囚われ続けていれば、彼女に身を削らせるような要求は悪化していくだろう。
現に彼らは立ち去る際に、まだ彼女から搾取する素振りを見せている。
今日は髪で済んだが、今度はもっと酷い目に合うかもしれない。
「竜胆様、ごめんなさい……」
右眼を覆うと、すずは竜胆に思いを馳せる。
折角、竜胆によって生き永らえたと言うのに、黄泉還しの力に目覚めたばかりに彼女の未来は絶望に覆われてしまった。
「私は……なんのために生きているのか、分からなくなってきたの……」
彼がすずに望んでいた健やかであれ、という願いは、もう叶えられそうにない。
「キュウ……」
未来へ絶望するすずの前に何処からともなく現れたのは、彼女が安らぎを感じる金銀妖瞳の鹿だった。
鹿は心配そうにすずに擦り寄ると、彼女は虚ろな瞳を鹿に向ける。
「鹿さん……また会いに来てくれたんだね……」
鹿の瞳は、三途の川で鬼灯を寂しく見送る青鬼の姿を彷彿とさせる。
「私が死んだら……」
そっと抱きしめた鹿のぬくもりを感じながら、彼女は濡れたまぶたをゆっくりと閉じた。
「最期に、三途の川で竜胆様に会えるかな……」
黄泉還しの巫女としての役目を求められ続けることは監禁前と変わりはないが、食事は最低限になり、庭先に出ることもできなくなった。
青鬼の竜胆の姿を彷彿とさせる鹿に出会うことも出来ない。
村長の存命時よりも追い詰められた境遇に、彼女は心身共に疲弊している。
そして今、すずは元夫に乱暴に抑え込まれ、刃物を持った女に髪を強く引っ張られていた。
「い、痛いです……!」
「大人しくしなさいよ!」
「この女の不気味な髪なんて触りたくねえ! 早く切るぞ!」
巫女らしいと言う理由で伸ばさせられていた白い髪は、今度は彼らによって乱雑に切り落とされてしまう。
腰の長さまであった髪は、肩の辺りで不揃いになってしまった。
「う……。どうしてこんなことを……」
特に髪に強い思い入れはなかったが、自分の髪の束を紐で結んでほくそ笑むふたりの鬼のような所業に、すずがぞっとする。
いや、彼女の知る鬼のほうが、比較するまでもなく優しかった。
「売るのよ。黄泉還しの巫女の髪は、不老長寿の縁起物として十分だもの」
「俺は気味が悪いと思うんだがな」
「金になるんだったら、何だって良いじゃないの」
「それもそうだな!」
「次は何を商品にする?」
彼らは、すずを金の卵を産む鶏としか見ていない。
「こんなの……ひどい……」
笑い声をあげながらふたりが去っていく様子を、すずはポロポロと涙をこぼして見送るしかなかった。
「母さん、父さん……。会いたいよ……」
このまま座敷牢に囚われ続けていれば、彼女に身を削らせるような要求は悪化していくだろう。
現に彼らは立ち去る際に、まだ彼女から搾取する素振りを見せている。
今日は髪で済んだが、今度はもっと酷い目に合うかもしれない。
「竜胆様、ごめんなさい……」
右眼を覆うと、すずは竜胆に思いを馳せる。
折角、竜胆によって生き永らえたと言うのに、黄泉還しの力に目覚めたばかりに彼女の未来は絶望に覆われてしまった。
「私は……なんのために生きているのか、分からなくなってきたの……」
彼がすずに望んでいた健やかであれ、という願いは、もう叶えられそうにない。
「キュウ……」
未来へ絶望するすずの前に何処からともなく現れたのは、彼女が安らぎを感じる金銀妖瞳の鹿だった。
鹿は心配そうにすずに擦り寄ると、彼女は虚ろな瞳を鹿に向ける。
「鹿さん……また会いに来てくれたんだね……」
鹿の瞳は、三途の川で鬼灯を寂しく見送る青鬼の姿を彷彿とさせる。
「私が死んだら……」
そっと抱きしめた鹿のぬくもりを感じながら、彼女は濡れたまぶたをゆっくりと閉じた。
「最期に、三途の川で竜胆様に会えるかな……」