【おまけ話】
 これは、すずが座敷牢から脱出し、鹿の姿をした竜胆に乗っているときのこと……。

『振り落としてしまうかもしれない。しっかりと掴まれ』
「うん!」

 ぴょんぴょんと跳ねるように走る竜胆に、すずが必死に縋りつく。

「わぁ!」
『乗り心地は辛いだろうが、(じき)に着く。我慢してくれ』
「ううん。乗せてくれてありがとう。竜胆様こそ、私を乗せていて辛くない?」
『問題ない。それに、すずは軽いからな……』

 ろくに食事を採らせてもらえなかったすずは、同年齢の平均的な村人よりもやせ細っている。

 ぴょこぴょこと可愛らしく移動する竜胆の姿を見て、背中の上から眺めていたすずが微笑んだ。

「ふふ……」
『両親に会えるのが嬉しいか?』
「それもあるけど。私いま、幸せだなって思って」
『そうか』

 鬼の姿のときは感情の分かりにくい表情をしている竜胆が、鹿の姿をして飛び跳ねている。
 そんな彼の様子が、可愛らしくて、愛おしい。
 すずは幸せをかみしめるかのように、竜胆を優しく抱きしめた。

~完~