六月。今、季節は初夏へと向かっている。
そんな夏の星座も素敵だけれど、一番好きなのは冬の星座なのだと伝える。
「北半球の日本で冬と言えば……。澪は、シリウスとか好きそうだな」
まさに一番好きな星を言い当てられて、私は驚く。
シリウスの青白く強い輝きがとても好きだった。
冬の星座には一等星が多く、夜空で星を見つけやすい。星に詳しくない人でも、きっと聞き覚えのある名前があるはずだ。
なかでも一番有名なのが、オリオン座の一等星・ベテルギウス。こいぬ座の一等星・プロキオン。そして、おおいぬ座の一等星・シリウスだ。この三つの一等星を線で繋いで出来あがる三角形を冬の大三角形といい、これは教科書にも登場している。
そんな夜空にきらめく星たちの中で、シリウスは最も明るい輝きを放ち、古代は神として崇められていた。
「ベテルギウスも好きなんですけど、でもやっぱりシリウスの方が」
「分かる。色だろ?」
「え? は、はい!」
ベテルギウスは赤白い輝きで、シリウスは青白い光をしている。
この色の違いには、星の表面温度が大きく関わっているのだ。表面温度が低いと赤く見え、高くなるにつれて、オレンジ・黄色・白・青白と色の見え方が変わっていく。
「あの青い輝きは惹かれるよな」
「はい!」
ヒスイさんの言葉に、私は嬉しくなってまた大きくうなずいた。
こんなに星座の話ができる人はあまりいない。舞衣ちゃんは星そのものより、星占いが好きで占星術に一番興味を持っている。なので香織先輩以外で、こんな風に星の色の話までしたのは初めてだった。
その時、ヒスイさんの手がそっと私の頬に触れる。
「ちゃんとそんな顔して、笑うんだな」
「え?」
「あ、ごめん。怯えた顔とか不安な顔ばっかりさせてたから。良かったって思ったら、無意識に触れてた」
すぐに離れた指先の温もりが、まだ微かに頬に残っている。
私は緊張を隠すように、必死になって言葉を引っ張り出した。
「あ、あの……。あの、来週の金曜の夜から、天文部で観測合宿があるんです」
天文部は、とある高原の自然センターで毎年六月下旬の金曜の夜から土曜日にかけて一泊二日の観測合宿をしている。夏から受験勉強が本格化する三年の先輩にとっては、この六月下旬の合宿が部活最後の引退イベントとなっていた。
「この時期なら、時間帯によって春の星座も夏の星座も両方見れるな」
「はい。自然の中で見ると、やっぱり感動します」
「そうだ! その日もこっそり澪に会いに行くから、二人で一緒に星空を見よう」
そんなヒスイさんの誘いに、私の胸の奥でまた鼓動が跳ねる。
「ほら」
そう言って、ヒスイさんが小指を私の前に差し出す。その行動の意味が分かって、私は緊張しながら自分も小指を前に出した。
私より一回り以上大きいヒスイさんの手。その長い指先が、優しく私の小指に絡む。
「約束」
小指と小指を繋ぎ合わせ、ゆびきりをする。
自分自身との約束や、誰かとの約束。
人生の中でいろんなものがあったけれど、ヒスイさんが告げた「約束」というその言葉は、私にとって今までで一番甘い響きをしていたような気がした。
そんな夏の星座も素敵だけれど、一番好きなのは冬の星座なのだと伝える。
「北半球の日本で冬と言えば……。澪は、シリウスとか好きそうだな」
まさに一番好きな星を言い当てられて、私は驚く。
シリウスの青白く強い輝きがとても好きだった。
冬の星座には一等星が多く、夜空で星を見つけやすい。星に詳しくない人でも、きっと聞き覚えのある名前があるはずだ。
なかでも一番有名なのが、オリオン座の一等星・ベテルギウス。こいぬ座の一等星・プロキオン。そして、おおいぬ座の一等星・シリウスだ。この三つの一等星を線で繋いで出来あがる三角形を冬の大三角形といい、これは教科書にも登場している。
そんな夜空にきらめく星たちの中で、シリウスは最も明るい輝きを放ち、古代は神として崇められていた。
「ベテルギウスも好きなんですけど、でもやっぱりシリウスの方が」
「分かる。色だろ?」
「え? は、はい!」
ベテルギウスは赤白い輝きで、シリウスは青白い光をしている。
この色の違いには、星の表面温度が大きく関わっているのだ。表面温度が低いと赤く見え、高くなるにつれて、オレンジ・黄色・白・青白と色の見え方が変わっていく。
「あの青い輝きは惹かれるよな」
「はい!」
ヒスイさんの言葉に、私は嬉しくなってまた大きくうなずいた。
こんなに星座の話ができる人はあまりいない。舞衣ちゃんは星そのものより、星占いが好きで占星術に一番興味を持っている。なので香織先輩以外で、こんな風に星の色の話までしたのは初めてだった。
その時、ヒスイさんの手がそっと私の頬に触れる。
「ちゃんとそんな顔して、笑うんだな」
「え?」
「あ、ごめん。怯えた顔とか不安な顔ばっかりさせてたから。良かったって思ったら、無意識に触れてた」
すぐに離れた指先の温もりが、まだ微かに頬に残っている。
私は緊張を隠すように、必死になって言葉を引っ張り出した。
「あ、あの……。あの、来週の金曜の夜から、天文部で観測合宿があるんです」
天文部は、とある高原の自然センターで毎年六月下旬の金曜の夜から土曜日にかけて一泊二日の観測合宿をしている。夏から受験勉強が本格化する三年の先輩にとっては、この六月下旬の合宿が部活最後の引退イベントとなっていた。
「この時期なら、時間帯によって春の星座も夏の星座も両方見れるな」
「はい。自然の中で見ると、やっぱり感動します」
「そうだ! その日もこっそり澪に会いに行くから、二人で一緒に星空を見よう」
そんなヒスイさんの誘いに、私の胸の奥でまた鼓動が跳ねる。
「ほら」
そう言って、ヒスイさんが小指を私の前に差し出す。その行動の意味が分かって、私は緊張しながら自分も小指を前に出した。
私より一回り以上大きいヒスイさんの手。その長い指先が、優しく私の小指に絡む。
「約束」
小指と小指を繋ぎ合わせ、ゆびきりをする。
自分自身との約束や、誰かとの約束。
人生の中でいろんなものがあったけれど、ヒスイさんが告げた「約束」というその言葉は、私にとって今までで一番甘い響きをしていたような気がした。