「ふんっ、勝手になさいませ!」
怒りで真っ赤に染まった顔を背けて、夫人は出て行った。
ようやく静かになった部屋の中で、桜さんの手を優しく握る。
「…桜さん、もう大丈夫ですよ」
僕一人では桜さんを動かせない。
弱っている桜さんを運び出すには人手が必要だ。
実家から人を呼んでこなくては。
何か紙はないかと、部屋の中を見渡してみる。
そこで、ふと目に入ったのが背の低い古びた書斎机。
その上に書きかけの手紙が置かれていた。
失礼だと分かりつつも宛名が自分だったので見ずにはいられなかった。
『修一さんへ』
それはいつもの桜さんの字だった。