霧がすべて晴れて視界が鮮明になると、布団に力なく横たわる妻がいた。
「桜さんっ」
顔を見たことはないが、写真で見ていたのですぐに分かった。
けれど写真よりも大分やつれている。
急いで駆け寄ると、眉根を寄せて掠れた声で、痛いと訴えた。
あの物の怪にどこか傷つけられたのだろうかと、掛け布団を捲って着物の袖を避けると骨と皮しかない細い腕に幾つもの痣があった。
「これは…」
明らかに人の手によって加えられた傷だ。
体調不良者がいるにも関わらず、手入れされた様子のない家。
洗われていない不潔な布団。
これらを鑑みて、考えられることは一つ。
「まぁまぁ、正虎様。こんなところにいては、あなたにまで不吉なことが起こりますわよ」
「夫人、これはどういう事でしょうか」
「どういうことも何もないですわ。こんな子の近くにいてはあなたまで呪われると言っているのです」