家令の制止を無視して、足を進める。
遠くからでは分からなかったが、離れは蜘蛛の巣だらけで蔦が壁を這い、周りも雑草で溢れていた。
手入れがされていないのは一目瞭然で、とても病人を休ませるような場所ではないことは明らかだ。
(本当にここにいるのか…?)
疑問に思いながら建付けの悪い引き戸を開けて、中を覗いてみる。
「っ、ゴホッ、ゴホッ」
埃塗れで、少々咳き込んでしまった。
鼻と口を左手で抑えて、右手で埃を払いながら靴を脱いで玄関を上がる。
「失礼します…。桜さん、いますか?」
破れた障子のついた部屋を一つ一つ、声を掛けながら開けていく。
すると、一番奥の部屋からカタンと小さな物音がした。
「桜さん?」
呼びかけながら部屋に近づくと、もう一度声を掛けて戸を開く。