「助けての合図…」
「でももう、私は諦めてしまっていたんですけどね…」
彼女の話だと、婚姻届けには誰かが勝手に名前を書いて提出したもので、自分で書いたものではないらしい。
結婚のことは事後報告で、僕からの仕送りは家族に没収され、手紙だけ投げ入れられていた。
両親もそんなこととは知らずに結婚を了承したようだ。
「すみません、あなたの事情も知らずに…」
自分の無関心さを恥じ入るばかりだ。
夫としての務めは最低限果たしているだろうなんて、とんでもない思い違いだった。
「いいえ、いいんです。私はこんな体だし、あなたも私なんかと居ても幸せにはなれないだろうし。
役所に行って手違いだったとして婚姻は取り消してもらいましょう」
「…その後、桜さんはどうするのですか」
「私は…」
「婚姻を一度、取り消すのは賛成です。
でも、桜さんさえよければ、今度はちゃんと桜さんの意思で桜さんの書いた名前で婚姻届けを出していただけませんか」