一ヶ月ほど過ごしているとようやく体の傷が治り始め、桜さんが起き上がる時間も多くなっていった。

「梅さんは、八歳の頃から私の傍にいたんです」

「そんなに長い間…」

「はい。梅さんは最初、何も話してくれなかったんですけど、私が暴力を振るわれていると知ってから、
私を守るように前に出たりしてくれたんです。

どうして庇ってくれるの?って聞いたら、私も夫に同じ扱いをされたからって…」

同じ扱いとはつまり…。

「結婚当初から酒癖が悪く、酔っぱらうと手が付けられなかったと。

子供が生まれてからもそれは変わらず、けれど守る存在が出来たことで生きる気力が湧いたって言ってました」

「子供まで暴力を…」

「…でも、子供を流行り病で亡くし、自分も病に臥せて哀しみの中で亡くなったんだって。

初めてそう話してくれた時、泣いてたんです。

泣くことなんてとっくの昔に忘れてたのにって…。

だからあなただけはせめて、泣くことだけは忘れないで欲しいって。

涙は、助けての合図になるから。そうしたらきっと誰かが気づいて助けてくれるから」