その日の昼休み、廊下には過去に例を見ないほどの人だかりができていた。白いセーラー襟の少女たちは掲示板を囲んでひそひそと内緒話を交わしている。
 偶然通りかかった樹里亜は、その輪の中から一際目立つ金髪の生徒――波止場水景に呼び止められた。

「樹里亜ちゃん! これ見てよ!」
「? はい、何でしょうか波止場先輩」

 水景に手招きされて樹里亜が輪の中央に躍り出ると、貼り出された一枚の告知の内容が飛び込んできた。

「えっ……これって……」

 思わず目を疑いたくなるような事実。樹里亜は水景に振り返った。

「ね? 驚きでしょ」

 二人は改めてその紙面を見つめた。

『2013年クリスマスミサ 学内演劇の主演立候補者

夜半月七夏(よわづきななか) (3年月組)
波止場水景(はとばみかげ) (3年星組)
川島淑乃(かわしまよしの)  (2年花組)
磐井(いわい)れおな (2年雪組)
白砂樹里亜(しらさごじゅりあ) (1年月組)

投票締切 10月31日 木曜日

【補足】投票数の一番多い方を主演とします。二番目以降の方には優先して演劇出演枠としてお声掛けさせていただきます。』

「びっくりした……演劇部が一人も居ないのも驚きだけど、それよりも……」

 そう言う水景の背後では誰かが呟いていた。

「これ、だん……、『紅茶部』の部員じゃない?」

 『男装喫茶部』と言いかけた彼女はどうやら客として男装喫茶ベラドンナへ訪れたことがあるらしい。

「しーっ、波止場先輩たちに聞こえちゃうでしょ!」
「ごめん、でも驚いちゃって……」

 しっかり聞こえてしまった内緒話を聞いていないふりをしながら、水景は樹里亜の腕を引っ張って輪から抜ける。
 最も人通りの少ない奥の方の階段をのぼり、誰も居ないことを確認して水景は踊り場で立ち止まった。

「いつの間にエントリーしてたの⁉ 俺の居ないところで全員参加って話でも進んでた?」

 水景の勢いに気圧されながらも樹里亜はなんとか答える。

「ごめんなさい……わたしはこっそりエントリーしてました。でも、他の人たちのことは知りません。多分、示し合わせてエントリーしたわけじゃないと思います」
「みんなそれぞれの理由があって主演にエントリーしたってこと……? 俺のこと応援してくれるって言ってたのに……」

 水景の表情には落胆と焦りが見える。樹里亜は反射的に否定していた。

「ち、違います! 少なくともわたしは、波止場先輩から主演の座を奪ってやろうだなんてつもりじゃありません!」
「じゃあ、どうして?」
「それは……波止場先輩と共演したいから……です。わたし、投票で波止場先輩に勝てるだなんて思ってません。二位になれば、ダブル主演か、そうじゃなくても脇役として共演できるかと思って……」

 樹里亜のいじらしい様子を見て水景は少し落ち着きを取り戻す。

「そっか……共演狙いか。ダブル主演が実現できるかもしれないんだ……」

 水景の目は遠くを見ている。樹里亜は食い気味に畳みかけた。

「ね、波止場先輩。リボンをもらえなかったこと、やっぱりショックでしたけど、これから好きになってもらえるように頑張るので。わたしのこと、見ていてくれませんか?」
「……」

 水景は黙って胸元のリボンを握りしめる。懇願に返事がかえってくることは、なかった。

***

 ノートの上を滑らせるペンの手を止め、白砂樹里亜は溜息をついた。
 ここは私立山手清花女子学院の保健室で、樹里亜は常連訪問者だった。すでに固定の仲良しグループが形成されがちな女子校の中で、高等部からの編入で周囲に馴染むのは難しく、彼女はそれが上手くいかなかった生徒の一人であった。様々な理由によって教室に居場所を得られなかった者たちは、自然とこの空間に集まるようになっていた。
 教室での居場所を得られなかった樹里亜は、同学年の友人と引き換えに保健室通いの友人を手に入れた。仲間の学年やクラスはバラバラであり、どこかに他人としての線引きがあることがかえって居心地がよかった。

「どうしたの樹里亜ちゃん。溜息なんかついて」

 そう声をかけたのは高等部三年の「保健室常連」だった。

「すみません、加藤先輩。ちょっと考え事をしていて……」
「溜息つくと幸せが逃げちゃうぞ~。悩みがあるなら先輩に話してみなさい、ほれほれ」
「……波止場先輩のことで、ちょっと」
「あー! みかげっち? 樹里亜ちゃんはみかげっちにお熱だもんねぇ。上手くいってないの?」

 合点がいったようにぽんと手を叩く加藤は、波止場水景のクラスメイトだった。

「上手くいってないというか……波止場先輩って、夜半月先輩と仲が良いですよね……」
「ななかっちと? うーん、それはどうだろ?」
「波止場先輩と夜半月先輩って、付き合ってたりしないですよね?」
「私には付き合ってないように見えるけどな~?」

 日々膨れ上がる不安を否定してもらえて、樹里亜は少し安堵する。

「だったらいいんですけど……」
「ななかっちは寧ろ、城ケ崎(じょうがさき)先輩のことが好きなのかと思ってたんだけどねぇ」

 耳慣れない人物の名前が挙がり、樹里亜は首を傾げた。

「城ケ崎先輩って誰ですか?」
「あれ、樹里亜ちゃんは知らない? そうか、高等部からの編入だとちょうど在校時期被らないか。城ケ崎先輩っていうのはねぇ、私やみかげっちの一つ上の学年に居た人なんだよ。超有名だったんだから!」
「どんなふうに有名だったんですか?」
「そりゃもう、『女子校の王子様』としてだね!」

 むにゅむにゅと不満を露わにしながら樹里亜は呟く。

「波止場先輩の方が王子様だもん……」
「アハハ、樹里亜ちゃんはそうだよねぇ。実際全然『響いて』なかった私から見ると、なんでこの人がこんなにモテモテなの? って疑問に思うような人だったよ。みかげっちは圧倒的にビジュアルが強いけど、城ケ崎先輩はスゲー美形って感じじゃなかったもんね」
「じゃあなんでその城ケ崎先輩って人はモテモテだったんですか?」
「樹里亜ちゃんに女子校の残酷な真実を教えてあげよう。女子校でモテる人っていうのには、圧倒的に美形であることはそんなに重要じゃないんだよ。大事なのは、『男性っぽい雰囲気』と『スキンシップの上手さ』と『どこか影のある感じ』なの」

 人差し指を立ててドヤ顔で語る加藤の話を咀嚼し、樹里亜は躊躇いがちに切り返した。

「……それ、ホストじゃないですか?」
「アハハ! 言いえて妙だね! 男性に耐性のない子ほどこの手の人に引っかかっちゃうんだな~。……まあそんな感じだからさぁ。私からするとあんまりお知り合いになりたくはない人だったんだよ、城ケ崎先輩っていうのは」
「卒業したからもう居ないってことですよね?」

 樹里亜の指摘を待っていたとでもいうように、加藤は一呼吸置いて答える。

「行方不明なんだよ」

 え、と樹里亜は思わず声を漏らす。

「どういうことですか? 行方不明って……」
「私が高二の冬だったから……ちょうど一年前くらいになるのかなぁ? 学校は大々的に公表したりしなかったけど、噂って広まるものだからね。欠席が続いていくうちに、行方不明ってことが判明したんだよね。なんでもバイト先から無断欠勤に関する苦情が学校に来たらしくてさ。……あれ、何の話だったっけ?」
「夜半月先輩は城ケ崎先輩のことが好きだったんじゃないかって話です」
「それだ! 脱線しちゃってごめんねぇ」
「いえ……夜半月先輩が波止場先輩に関心がないなら、わたしにもチャンスがありそうって分かったので。ありがとうございます」
「それならよかった。ところで樹里亜ちゃん、何書いてるの? 日記?」
「あ、えっと……そんな感じです」

 加藤に指されて樹里亜はノートを閉じる。

「おや、見ちゃダメなやつだったか」
「あはは……」

 樹里亜は時刻を確認し、ノートを鞄にしまって立ち上がる。

「では、部活があるので失礼します」
「いってらっしゃい~」

 保健室を後にし、樹里亜は部室を目指す。

(ジュリくん、大丈夫かなぁ。わたしの知らないところで問題を起こしてたりしないといいんだけど……)

***

 いかにしてジュリという存在が生まれたか、樹里亜はそれを知らない。いつからか記憶が途切れることがあり、自分は何らかの病気なのではないかと不安に思っていた。
 ある朝、樹里亜が目覚めると自室のデスクの上に一冊のノートが開いて置いてあった。中を覗き見ると、そこに書かれていたのは衝撃的な内容だった。

『おはよう樹里亜。ここに書くことは信じられないかもしれないけど、とりあえず最後まで読んでくれ。
 俺はお前の中にいるもう一人のお前だ。二重人格、って言い方をすると分かりやすいかもしれない』

 樹里亜は狼狽えた。書いた覚えのない文章が、自分のノートに、自分の筆跡で書かれていたからだ。

『ときどき記憶が途切れることはないか? その間、自分が何をしていたのか不安に思わないか? 樹里亜の記憶が途切れている間は、俺が「表」に出ているんだ。なにが人格交代のトリガーなのかは分からないけど、それだけが事実だ』

 状況証拠的に、樹里亜は自らが二重人格であることを認めるしかなかった。

『細かいことを書くのは面倒だから本題に入る。俺と交換日記をしてくれないか? 樹里亜も分かっていると思うけど、俺たちは互いの記憶を引き継げない。以前、課題提出に遅れて怒られたことがあるんだ。大事な約束を忘れるとお前だって困るだろ? だから、うっかり俺に「交代」したときもなんとかなるように、重要な予定を共有してほしい』

 意外だ、と思った。漫画や小説で見かける二重人格は、どちらの人格が主人格になるのか争うシーンが描かれることが多かったからだった。「樹里亜の中のもう一人」は、そういった要求はしてこなかった。
 それから樹里亜は「もう一人の自分」と交換日記を始めた。明日までの課題、図書室で借りた本の返却期限、彼氏とのデートの約束など。奇妙ではあるがしかし、穏やかな日々を送っていた。

『ところで樹里亜、あの彼氏は本当にお前が選んだのか? いい趣味だとは思わないけど』

 あるときそんなことを書かれた。樹里亜は少しむっとしながら返事を書く。

『そんなわけないでしょ。好きで付き合ってるんじゃないの。将来を見据えた計画だよ』
『なんの計画だよ?』
『たとえば、大学を卒業してすぐ結婚するとしたら、今から付き合い始めても八年のお付き合いでしょ? 本当は十年くらい欲しいけど。長く付き合って結婚しました! って純愛ストーリーのためには今から積み重ねていかないといけないの』
『じゃあもう少しいい人を探したらどうなんだよ。なんでアイツなの?』
『妥協だよ。わたしにはあの程度の人しか捕まえられない。それに、わたしより程度の低い人間ならわたしの言うことを聞くべきでしょ? 言うことをきける従順で都合のいい人がいいの』
『薄々分かってたけどお前、性格悪いぞ。あと、悪い方向に自己評価が低いのも考えものだな』
『うるさい』

 それだけ書いて樹里亜はノートを閉じた。

(仕方ないでしょ。もっと上等な人間なら自由に生きられたかもしれないけど、わたしは不器用だし要領も悪い。正攻法では生きられないんだよ。ずるいことしないと人並みになれないのに……)

 樹里亜はスマホの中のツーショット写真を眺める。ぱっとしない同じクラスの男子。それは謂わば、路傍の凡人だった。

(わたしはきっと、諦めながら生き続けるしかないんだ。直視したくもない顔の男とキスをして、保健の教科書で見たあのグロテスクな棒を受け入れるしかないんだ。気持ち悪い。ああ気持ち悪い……)

 そんな樹里亜の人生に転機が訪れたのは、高校の入学式のことだった。
 慣れない校舎の中で迷ってしまった樹里亜に、その人は手を差し伸べた。

「迷子? 俺が案内してあげるよ」
「あなたは……?」
「俺は、波止場水景」

 自らを「俺」と称する金髪碧眼の彼女こそが、後に最愛の人となる波止場水景だった。
 樹里亜は水景に校舎の中を案内されながら取り留めのない会話を交わした。

「樹里亜ちゃんって高等部からの受験組だよね。勉強できるんだねぇ」
「いえ……そんなことないですよ。わたしなんてなにをしてもダメダメで、たぶん一生冴えない人生を送るんだと思います」
「ネガティブ〜! そんなに卑下することないじゃん。俺、樹里亜ちゃんはかわいいと思うんだけどな」
「えっ」

 驚いて立ち止まる樹里亜に振り向き、水景は手を伸ばす。長く伸びた前髪を少し持ち上げて、彼女は微笑んだ。

「ほら、やっぱりかわいい」
「っ……!」

 何も言えずに顔を赤くする樹里亜に向かって、水景は続ける。

「きっと人生楽しいこといっぱいあるよ! 俺も俺の一生を満喫するつもりだし」

 眩しい笑顔を見せる水景に、ただただ憧れた。根拠はないけれど、彼女は自由に生きられる人なのだと感じた。自分の限界を決めて縮こまっていた樹里亜にとって、波止場水景という人はあまりにも伸び伸びとした振る舞いが魅力的だった。

「……わたしも、自由に生きられますか?」
「うん? そりゃそうだよ。樹里亜ちゃんのやりたいようにやってみればいいじゃん」

 迷いのない軽やかな返答に、樹里亜は背中を押されたような気がした。

(波止場先輩、好き。わたしも先輩みたいになりたい。我慢しなくていいんだ。わたしはわたしのやりたいようにすればいいんだ!)

 樹里亜はまず、彼氏と別れた。

(善は急げっていうもんね。適当な人で妥協する必要ないなら別れよう)

 ノートの中の「もう一人」は事の性急さに呆れたが、樹里亜は晴れ晴れとした気分だった。
 そして彼女は、波止場水景が在籍する部活動を突き止めた。校内でも目立つ水景の足取りを辿るのは容易く、すぐに「紅茶部」なる部活を訪ねた。

「なぁに、お客さん?」
「あの、紅茶部に入部希望なんですけど……」

 気だるげに応対する銀髪の上級生は、部室の中へ振り返って声をかけた。

「水景〜、入部希望の子だって〜」

 すたすたと上履きの足音が近づいてきて、樹里亜は一際緊張した。足音の主は言うまでもなく波止場水景だった。目の前に彼女が現れると樹里亜の鼓動は高鳴る。

「入部希望なんだって? よかった、今年は君が一人目だよ!」

 水景はあの日と同じ笑顔で樹里亜に言った。

「はいっ……あの、波止場先輩。これからよろしくお願いしますっ!」

 上擦った声で樹里亜はそう挨拶し、深々とお辞儀をする。顔を上げると、水景はきょとんとした顔をしていた。

「俺のこと知ってくれてるんだね!」
「えっ……あの、入学式でお会いしましたよね?」
「そうだっけ? 俺、忘れっぽいから覚えてないや。まぁこれからよろしく!」

 仕方のないことなのだと。自分にとっては大事な出会いの思い出も、相手にとっても同じとは限らないのだと。ましてや、いつも羨望の眼差しを向けられる水景にとって、まだ樹里亜はたくさんのファンの中の一人に過ぎないのだ――そう自分に言い聞かせ、樹里亜は紅茶部に入部した。

 それから間もなく、樹里亜は「自分の中のもう一人」の変化に気づいた。今まで偶発的に起きていた人格交代は、明確なきっかけによって切り替わるようになったのだ。
 最初にそのことに気づいたのは紅茶部の一学年先輩である磐井れおなだった。彼女の指摘があってから、「樹里亜の中のもう一人」は「樹里亜が男装をしたときのみ」、表に現れるようになった。「もう一人」は紅茶部の恒例に則って「ジュリ」という名前を名乗るようになり、樹里亜の知らないうちに人気の部員となっていた。

『ジュリくん、やたら人気みたいだけどお客様に変なサービスとかしてないよね?』
『してねぇよ。ところで樹里亜、今は波止場先輩が好きなのか?』
『そうだけど。文句ある?』
『俺はあんまり……いや、前の冴えない彼氏よりはマシだと思うけど』
『マシってなに? 波止場先輩は理想の人だよ。波止場先輩と結婚できたら、わたしは幸せになれるんだから』
『結婚って……どこの国に行くつもりだよ。俺、あの人もあんまり頼りにならないと思うけどな。なんかボヤっとしてるし』
『波止場先輩はボヤっとしてないもん!』
『入学式の日に樹里亜と会ったこと忘れてたじゃん』

 樹里亜は反論できなかった。
 薄々分かり始めていたことではあった。波止場水景は完璧な王子様ではないということくらい。しかし、純愛に憧れる樹里亜は初志貫徹にこだわった。心に決めたからには最後まで愛さなければいけないという、意地と強迫観念があった。

***

「ようこそ、素敵なお嬢さん!」

 ジュリは来客の手を取り、慣れた様子で喫茶室へと導く。今日の来客たる少女は、初めて予約したというあどけない風貌の生徒だった。

「緊張してるだろ? 怖いことなんかないから、リラ〜ックス! な?」

 言いながらジュリは少女の隣に椅子を並べて座る。覗き込むようにして紅茶のメニューを指し示す彼の距離感に、少女は顔を赤くして俯く。

「普段紅茶はよく飲む?」
「わりと……あの、苦味が少ないフレーバーティーとかが好きなんですけど」
「オーケー任せろ。持ってきてくれた焼き菓子は……おっ、ガトーショコラじゃん! いいね、俺これ好き」

 会話を進めながらジュリは思考する。

(チョコレート系にはアールグレイが合うってレオ先輩が言ってたな)

「じゃあ――」

 アールグレイ、と言う寸前にジュリは考え直す。

(普段からわりと紅茶を飲んでいるならアールグレイは普通すぎるかな? 違うのを選ぶなら……)

「ラズベリーティー! どう?」

 ジュリの選択に少女は顔を輝かせる。

「いいですね! ベリー系って好きです。それでお願いします、ジュリくん」

(よし!)

 ジュリは心の中でガッツポーズをする。

「じゃあ入れてくるから待ってて」

 手際よく紅茶の支度を済ませて二人だけのお茶会が始まる。紅茶の味が気に入ったらしく、少女の緊張はすぐに解けた。

「ジュリくんって何年生なんですか?」
「あ、それ答えたらダメな決まりなんだ、ごめんー。秘密ってことにしといてよ」
「そうなんですね。じゃあ知らない人の話をしてもいいですか?」

 少女は意味ありげな含み笑いをして続ける。

「今年のクリスマスミサの主演、とある部活のメンバーで争ってるらしいですよ」
「へぇ」

 なるほどそう来たか、と思いながらジュリは相槌を打つ。

「ジュリくんは、どうして彼女たちが一斉にたった一つの主演の座をかけて争うことになったんだと思いますか?」
「分からないな」

 実際ジュリの知るところではなかった。ジュリが分かっていることは身体を共有する魂の隣人・白砂樹里亜のエントリーのみで、他の四人がなぜエントリーしたかまでは把握していない。

「私、ジュ――白砂さんに一票を投じようと思ってるんですよ」

 なんだ、初心者ぶっておいてそこまで把握しているのか――とジュリは肩をすくめる。

「いい考えなんじゃねえの?」
「ですよね。今年のクリスマスミサ、楽しみです。去年はあんなことになっちゃったので、ちょっと心配ですけど」
「あんなこと?」
「ジュリくんは知らないか。去年のクリスマスミサの学内演劇の主演になった人、行方不明になっちゃったんですよ。――城ケ崎碧先輩っていうんですけど」