「海、渡瀬の前も派遣?」
「うん。空は大学の半分は海外だったから渡瀬商事を選んだの?」

刺身湯葉をつまみ上げながら聞く海だが、その手には乗らない。自分のことは話さないつもりかもしれないが6年前のように俺のことばかりは話さない。頷くだけで穴子の天ぷらを口にしてワンクッション置くと

「ずっと派遣ってこと?」

海へ質問をする。こうしてゆっくり話を聞いて、今度は海と離れない。あの頃は、2年間の留学イコール別れ、と考えた。だけどそれは間違っていた。何年でも待ってくれと…そう言うべきだったんだ。

留学中にも美しいブルー、魅力的なブルーに出会ったが、どれもフィルター越しのように見えたのは海がいないせいだ。だけど留学を終えた俺は海と連絡が取れなくなっていた。

「うん」
「東京でおばさんと住んでんの?」
「ううん、川崎」
「もう少し詳しく言って」
「お母さんが川崎で古い小さな家を買ったの」
「いつ?」
「…空と最後に会った…偶然会ったころ」
「6年前?何だかいつにも増して歯切れが悪いというか…自分のことを話さなかったのは引っ越しを隠してた?」
「…そうだったかな?」
「まあいいわ、で?そこからここへ通ってんのか?」
「最初は一緒に暮らしていたんだけど、私は駅に近いアパートに引っ越したの」