それでもやはり心は傷つき、疲弊しきっていた。

家を追い出されて、むしろ良かったのかもしれない。
あのままあそこに閉じ込められていれば、本当に心は壊れていたのかもしれないのだから。

初めて自分自身を持てたことで、そう思えるようになった。

お寺で働く他の人たちも何かと気にかけてくれて、時々子供たちと共に勉強もしている。
最低限、読み書きは教えてもらったが、それ以外は何も知らなかった。

最近は百人一首も教えてもらって、洗濯物が終わった後に子供たちと一緒に遊んでいると、私を訪ねて男性が来ていると言われた。

私に会いに来る人なんていないだろうと思いながらも、
客人を通す部屋へ向かうと、そこには数か月前に離婚した元夫である誠一郎さんが机を前に正座していた。

「ど、どうなさったのですか?」

「その…、突然の訪問をお許しください。あなたに、謝りたいと思いましてずっと探しておりました」

「謝るって、何をですか?」

別に謝られるようなことはされていないと思うのだが。
襖を開けたままその場に立ち尽くして、疑問を浮かべていると、誠一郎さんが唐突に頭を下げて土下座の姿勢を取る。

「最後に会った時、あなたの事情も知らず、とても失礼な態度だったと反省しております。本当に申し訳ありありませんでした」