その後、私は正式に役立たずの烙印を押され、家を追い出された。
きっと、除籍もされているだろう。
もう二度と、私があの家に戻ることは許されない。

お金も持っていない私では宿に泊まることも出来ず、なけなしの荷物を持って、ただ歩いて地べたで寝て起きたらまた歩く。

それを繰り返している内に、この山のお寺まで辿り着き、掃除などの手伝いをする代わりに住まわせてもらうことになった。
幸いにも、ここの住職さんはとても親切な方で、私の食事まで用意してくれる。

温かい食事は久し振りで、最初に口にしたときは少しだけ涙が出た。
家ではいつも冷めた残り物を食べていたので、温もりを感じてつい込み上げてきてしまったのだ。

「たんとお食べ」

「ありがとう、ございます…」

震える声で小さく発した感謝の気持ちは、ちゃんと住職の耳に届いたようだった。

「長く生きていれば何かしら良いことがあるもんさ。もちろん、お前さんにも」

「はい…っ」

ここで過ごして温かい心に触れている内に、ずっと蓋をして気づかない振りをしていた、父に愛されなかった哀しみが癒えていった。

夫だった誠一郎さんにも、心のどこかでは愛されるかもしれないという淡い期待があったが、それは打ち砕かれた。
でも仕方ないことだと、受け入れる事しか私にはできなかった。