「サユさん」

「は、はいっ」

急に名前を呼ばれ、驚いて肩が跳ねる。

「私の家の者が何度かあなたを迎えに行ったのですが、何故拒絶したのですか?」

「え、迎えって…」

「…知らない振りをするのは結構ですが、こちらは最低限歩み寄ろうとしたのです。でもあなたは応じなかった」

知らない振りではなく本当に知らなかった、という言葉はどうやら聞き入れてもらえないようだ。
彼は心から私を拒絶している。

肌に触れる空気がとても冷たく感じるのは冬が近いからか、それとも冷血と恐れられている彼の纏う空気がそう感じさせるのか。

「離婚の手続きはこちらで済ませますので、サユさんにはこちらにお名前を書いていただくだけで結構です」

そう言って一枚の紙を取り出して、私の名前を書く場所を指で示す。

「待ってくれ、何もそんなに離婚を急ぐことはないだろう。もう少し話し合ってからでも」

父が止めようとするも、彼は聞く耳を持たない。

「今さら話したところで、結論は変わらないでしょう。こういうことは早く済ませてしまった方が良い」

「しかし…っ」