「ようこそ。ご苦労だったね、誠一郎くん」
「…どうも」
夫の名前は天馬 誠一郎(てんま せいいちろう)という。
今まで名を呼ぶことはなかったが、父は本心を隠して義理の息子となる相手ににこやかに相対する。
夫の方は無表情で、父の握手に応じる。
そして夫は私を一瞥すると、眉根を寄せて不満そうな顔を見せる。
「今日来たのは、彼女と離婚の手続きをするためです」
「は…?」
唐突に放たれた言葉に、父は硬直する。
対して私は、あぁやっぱりと納得した。
「私の母へ送ってくださった薬ですが全く効果がなく、調べてみれば母の病に効く薬ではないことが分かりました」
「そ、それは…」
「ずっと私を騙すおつもりだったようですが、資産を手に入れた今、薬は自分で調達できます。彼女と夫婦でいる理由はない」
あわよくば彼の武功の恩恵にあやかろうと目論んでいた父は悔しそうに手を握りしめる。