父はその怒りを私にぶつけたが、それでも私は嬉しかった。
誰も哀しまずに済むのなら、それが一番だと思ったから。

夫は帰国の一週間後、家まで訪問する旨を伝えてきた。

いくら毛嫌いしていようと相手は自分よりも地位のある貴族。
流石の父も受け入れざるを得ず、私に準備しておくようにと苦虫を嚙み潰したような顔で言ってきた。

準備すると言っても、家の掃除を入念にして花を飾って少しでも華やかにすることしかできない。

私にお金を預けると盗むとでも思っているのか、生まれてこの方、まともにお金を手に持ったことがない。
なので、家の装飾品を買うことも許されていないのだ。
出費を抑えるために使用人も最低限しかいないのに、私は外出することも出来ないのでお使いなんて以ての外。

なので、出来るだけ綺麗に掃除することしか使用人たちの負担を減らす方法がない。
尤も、使用人たちは私と話すことを禁止されているので、特に役割分担をしているわけではないのだが。


そうやってバタバタと忙しくしていると、あっという間に夫が訪問する日になった。

今日だけはいつもよりまともな服を着て、父の後ろに控える。
更に後ろには使用人たちも姿勢を正して並ぶ。

そして玄関から入ってきた初めて見る夫は、想像していたよりも大柄で筋骨隆々。
如何にも軍人といった風貌をしていた。