けれど結局、自分だけのお金を持たされていない私では、夫のために防寒具を買うことも出来ない。
せめて手紙でもと思ったが、父に破り捨てられて終わった。
「契約相手に情など持つな」と。
そうしている間に夫が戦場へと発ったと連絡があった。
父は、ようやく貴族として周りに舐められないようになるとほくそ笑んでいた。
いくら商人として成功しようと、爵位も貰っていないままでは周りとの差が埋められないと常々憤っていた父からしたら、
今回の結婚はまたとない機会だったのだろう。
夫の母、つまり私の義母にあたる人は病に臥していて、
父は薬を引き換えにしたと言っていたが、あの父が本当に効く薬を渡したとは到底思えない。
二人がいなくならなければ父に爵位は引き継がれないのだから、義母が長生きしたら意味がないのだ。
最悪、毒を渡している可能性だってある。
そのことを夫の実家に伝えようと策を考えて見るものの、味方のいない私ではやはり無理だった。
届けられないと分かっていても、いつか機会があるかもしれないと手紙を書き溜める日々。
亡くなった母が唯一残してくれたお守りを手に、夫と義母が無事でいますようにと祈る。
そんな生活を一年ほど続けて冬を目前に控えたある日。
夫が無事に帰国したと報告があり、私は安堵の息を吐いた。
さらに武功を立てたことにより、昇進もするのだという。