誤解が解けたならそれで十分。
そもそもは、父がすべての原因なのだから誠一郎さんが謝ることではない。
そう伝えるも、彼は未だに頭を上げようとしない。
「今さらだとは思いますし、誠に勝手だということは重々承知なのですが、私にもう一度機会を頂けませんでしょうか」
「機会って…」
「妻になってくれとまでは言いません。ただ、あなたに隣にいて欲しいのです」
「え…、で、でも私は…。私の父は、あなたを騙したんですよ?お母様の病に効く薬だと偽って、命の危険にさらしたのに」
「それはあなたのせいではありません。むしろあなたは手紙でそのことを伝えようとしてくれていたではないですか」
そこでようやく誠一郎さんは顔を上げて、力強い瞳で私を見つめる。
「でも、それでも…、私はなにも出来なかったから。私も父と同罪です」
「いいえ、それだけはあり得ません。絶対に、あなたに罪はない」
「…そう言ってくれるのは嬉しいのですが、私は罪悪感が拭えないのです。
私の母も病に倒れ、近くで苦しむ姿を見ていました。
そこへ、病に効く薬があると言われ、藁にも縋る思いだったのにも関わらず裏切られる…。
それがどれだけ辛いことか、私も少しですが分かるのです。
きっと、騙した相手を許せない」