「い、いえっ、そんな謝らないでくださいっ。どうか頭を上げてください!」
突然のことで驚いて、思わず駆け寄って体を起こさせようと肩に手を添える。
けれど、彼はそれでも顔を上げようとはしなかった。
「本当に申し訳ない。あなたがあの家で酷い扱いを受けていたなんて…」
「あの、どうして突然そんなことを…」
「あなたの家の使用人の方たちが、あなたが書いた手紙を持ってきて下さったのです。
そして、あなたが碌に食事も与えられず、無償で働かされていたのだと教えてくださいました」
「そう、だったのですね…」
「主に逆らえず、あなたを助けることが出来なかったと悔いている様子でした」
これまでの父を見て分かる通り、父は屋敷で働く者たちに対しても横柄な態度で接していたので、
使用人たちは当然、娘の私にもいい感情は持っていないと思っていた。
けれど今の話が本当なら、少なくとも嫌われてはいなかったようだ。
「勝手ながら、あなたが私と私の母へ宛てて書いてくれた手紙を全て拝読しました。
戦場にいる私の身を案じ、母の体調を気遣ってくださっていたのに、私ときたら自分の都合ばかりで…。
あなたは外に出たくとも出られなかったというのに、ひどい言葉を投げつけてしまいました」
「いえ、そんな…。もう、大丈夫ですから」