寒空の下、洗濯物を手洗いする。
手の感覚は次第になくなり、自分の吐息を吹きかけて寒さを耐え凌ぐ。
雪の降りそうな空を見上げ、この山で暮らすようになるまでのことを思い出す。

一ヶ月前、私は婚姻を結んでいた人と離婚した。

私の家は代々商家で、父の代で莫大な資産を築いた。
けれどそばかすが目立ち、綺麗でもなく秀でた才能もない私は、家ではいないものとして扱われていた。

役立たず。
何度そう言われたか分からない。

そんな私の縁談相手は戦場に行くことが決まった軍人だった。

父が内密に進めたもので、知らされたのはすでに話がまとまった後。
その日の内に婚姻届けに名前を書いて提出して、あれよあれよという間に私には夫が出来た。
顔を合わせることなく夫婦になったが、それについて特に思うことはなかった。

ただ、噂に聞く限り夫は冷血で、使えないと判断した人間は容赦なく追放する。
妻である私も、不要だと判断されたらきっと家を追い出されることになるだろう。

でもずっと役立たずだと言われてきた私が、今さら誰かに必要だと言われるはずはないと半ば諦めていた。

ただ何もしないわけにもいかないので、夫の実家へ赴こうと準備をしようとすると、父はその必要はないと切り捨てた。