部屋に入ると、真っ白なベッドの上に座っている春陽くんの姿があった。
その右腕には点滴のチューブが繋がれている。
そして、その隣には秋斗くんが同じようにベッドの上に座っていた。

「えっ? 秋斗くん、春陽くん」
「どうして、どちらも起きているの?」

まさかの展開に、私とねねちゃんの心が揺さぶる。
『共依存病』の主な症状は、二つの身体に同じ人格が宿っていること。
身体は別でも、心は一つという一心同体の不思議な病気で、この病気に罹った人は一日置きに身体が入れ替わる。
そして、いずれ、魂がどちらかの身体に紐付き、どちらかが死んでしまうという残酷な病気だ。
それなのに、どうして秋斗くんと春陽くんは今、この瞬間、どちらも起きているんだろう。

「俺たちは、本来の『共依存病』の患者とは異なっていただろう」
「うん」
「陽琉は、俺と秋斗の身体に宿っている魂の片割れ。魂の半身だった。陽琉の身体だけに宿っている魂。だから、俺たちのように、『共依存病』の症状に悩まされることはなかった」

春陽くんの話に、私の身体は強張っていた。
それは、恐怖とか不安とかそういう類のものからくるものではなかった。
今まで一度も見えていなかった選択肢が突然、光った。
そのことに心の奥が震えてしまっている。

「なら、俺たちも魂を『はんぶんこ』に分けたら、『共依存病』の症状に悩まされることはなくなるはずだろう」
「あ……!」

突然、示された答えに、私とねねちゃんは息を呑んだ。
私たち以外の人が聞いても、何を言っているのか分からないだろう。
その言葉が示すあり得ない憶測に、私は震えた。
もしかして、春陽くんの日が続いていた理由は――

「母さんが伝えた治療法は、同じ魂を持つ――『共依存病』の患者である、陽琉の状況をもとにしたものだ。つまり、魂そのものを分ける治療法だったんだよな」

予想もしていなかった真実。
その言葉の意味を理解した瞬間、目頭の奥にじんわりとした熱が生まれた。

「まあ、もっとも――俺たちの場合、まだ完全に魂が分かれていないからさ。二人同時に目覚めても、意識している方でしか話すことはできないし、こうして傍にいないと保っていられなかったりするけどな」

私の視界がぼやけていく。
だけど、泣き出してしまいたいような心地ではなく、何だか気持ちは穏やかなままだった。
秋斗くんと春陽くんとはるくんは、本来の『共依存病』の患者とは症状が異なっている。
だから、希望が生まれたんだ。
それが多分、全てだった。
嬉しいのに、切なくて、寂しくて、それでも、その全てが優しさに包まれているような気がして。
一炊の夢のような時間の中で、炸裂する熱量と輝きが眩しい。