それから数日後、私にとっての学校生活は、秋斗くんと春陽くんに出会う前のそれと大きく変わっていた。
高校二年生の春のひととき。
海浜公園の観覧車に乗った後、次の目的地として向かった場所は駅だった。

秋斗くんと春陽くん、どちらも救う手段。

はるくんのお母さんが伝えた治療法は、同じ魂を持つ――『共依存病』の患者である、はるくんの状況をもとにしたものだった。
だけど、今のままでは慢性的な経過をとり、根本的な治療には至ってはいない。
今までのように、突然、入れ替わる可能性が高いのは変わらない。
そして、失われた春陽くんの時間が戻ってくることもない。

秋斗くんと春陽くん、どちらも本当の意味で救うために。

このまま、この治療を続けていくためには、『共依存病』に特化した専門医――難病指定医師、そして『共依存病』の研究に取り組んでいる研究者の協力がどうしても必要になる。
桐島教授――つまり、はるくんのお母さんから紹介されて、秋斗くんと春陽くんが『共依存病』の治療のために、県外の病院に転院することを知った。
このままでは、秋斗くんと春陽くんと離ればなれになってしまう。
その事実を前にして、ねねちゃんが取った行動は思い切ったものだった。

「あのね、しずちゃん」

ねねちゃんは落ち込む私の方を見て、はにかむように笑顔を作った。

「わたしたちも、はるくんとあきくんについて行こう! もう二度と離ればなれにならないために!」
「ねねちゃん……」

ねねちゃんの決意が心を温める。
私はその温もりに突き動かされるように、ねねちゃんの目をまっすぐに見つめてうなずいた。

「そうだね。今まで離れていた分、これからはもっともっと、みんなで一緒にいたい」

どうしても秋斗くんと春陽くんの傍にいたかった私たちは、お父さんたちを説得して、二人が通うことになる――寮制度の高校に転校することにした。
お父さんとお母さんは、突然の転校の話に驚いていたけど。
秋斗くんと春陽くんは、私たちにとって、もはや切り離すこともできないほど特別だったから。
どうしても離れたくなかったんだ。

「しずちゃん。今日から始まる新しい学校生活、すごく楽しみだねー」
「うん。ねねちゃんと同じクラスで良かった」

私のルームメイトは、もちろんねねちゃん。
可愛い制服を着たねねちゃんは、せっせと陽光に包まれたような淡い髪を整えている。
初めての寮生活に私は少し緊張しているけど、ねねちゃんはあまり細かいことは気にしないみたい。
私は目を閉じて一つ深呼吸をすると、大切な人たちの名前を呼んだ。

「秋斗くん、春陽くん……」

私の声に呼応するように、机の上に置いてある携帯が震えた。メールが来たみたいだ。
画面に映る送り主は『春陽くん』。
思わず、どきりとした。
まるで会いたいと願う気持ちを見透かされたような気がしたから。