「普通じゃない……って、なんつーか思っていたより、苦しくて大変なことだったんだよな。退院してからも、いろいろと不都合な出来事に遭遇してばかりだったしー」

どこまでもまっすぐな笑顔と言葉に、私は無性に泣きたくなる。
二人で一人。
きっと、今まで辛いことをたくさん経験しているはずなのに。
どうして、あなたはそんなふうに笑えているの。
その問いの答えも、春陽くんは持っていた。

「だけど、俺たちは雫とねねちゃんに出逢った。雫とねねちゃんと過ごした日々、そのどれもが俺たちにとってかけがえのない幸せだった。だからかな。どんな方法を用いても、二人で一緒に生きたいと思ってしまったかもしれない」
「あ……」

私の震える声を掻き消すように、春陽くんは私たちをまっすぐに見つめた。
『キャラ作り』を活かして。
互いにないものを補い合って依存していた秋斗くんと春陽くん。
それでも良かったんだ。
たとえ、辛い現実があっても、二人でいれば、生きていけたから。

「俺たちは、お互いがお互いだけだった。ずっと支え合って生きてきた」

だから、離れたくない。
これからもずっと一緒にいたい。
夏祭りの時と同じように、二人の思いの丈が聞こえてくるようで。
私とねねちゃんはあの日の約束を確かめ合うように手を取り合う。

「でも、今はもう違う。俺たちには雫とねねちゃん、そして陽琉が傍にいてくれる。だから、こうして前を向いて歩くことができる」
「……うん」

誰より愛しい響きを残して、その言葉は私の心の中に鳴り響く。
現実はどこまでも残酷だ。
それでも私たちは不安に苛まれながらも、いつだって手探りで明日に進むしかないんだ。

『しずちゃん、いくらでも悩めばいい。ただその後、しっかり前さえ向ければ』

はるくんが教えてくれた。
前を向くということは――。
決して、目を閉じてしまうことじゃない。
耳を塞いでしまうことでもない。
前を向くということは……一緒に歩いていくこと……。
思い出の向こうにある、新しい出会いのために――。

過去は未来よりも遠い。
どこよりもはるかに遠い場所で、どれほど手を伸ばしても届くことはない。
けど、過ぎ去った時間の中で、はるくんが紡いでくれたものが、私たちの生きる今をつくっている。
見えなくても、触れられなくても、会えなくても、繋がっているのだ。

――あの春の先で待つあなたへ、と。