「あのね、はるくん」
今まで黙っていたねねちゃんが口を開いた。
「はるくんの時はわがまま、言ってもいいんだよ。いっぱいいっぱい」
壊れやすい心を撫でるように、ねねちゃんは優しく言葉を紡ぐ。
「お兄さんのあきくんに甘えてもいいんだよ。お兄さんのあきくんになった時に、今度は……弟のはるくんの想いを受け止めたらいいからー」
ねねちゃんの言葉。
その全てが優しさに包まれているような気がして。
「自分に甘えるなんて変な感じだなー」
春陽くんは苦笑いする。そして、覚悟を決めてぽつりぽつりと一歩踏み出した。
「……俺は、秋斗にわがままを言いたい。いっぱいいっぱい言いたい」
『キャラ作り』を活かして。
互いにないものを補い合って依存していた秋斗くんと春陽くん。
それでも良かったんだ。
二人でいれば、生きていけたから。
「俺たちは、お互いがお互いだけだった。支え合って生きてきた」
だから、離れたくない。
これからもずっと一緒にいたい。
二人の思いの丈が聞こえてくるようで。
「俺たちの思い出は、俺たち……二人だけのものだった。でも、今はもう違う。俺たちの思い出は、俺と秋斗と陽琉、雫とねねちゃん、五人だけのものだ」
「……うん」
誰より愛しい響きを残して、その言葉は私の心の中に鳴り響く。
春陽くんたちとの思い出が積もるだけで心が躍る。
「雫が言ったとおり、俺は運動部に入りたい。思いきり、身体を動かしたいからさ」
春陽くんは誰よりも優しい笑顔で笑う。
それは今まで見たことないほどに無邪気な笑顔で……胸が高鳴った。
「うーん、そうだな。もし、今から入部するとしたら……やっぱー、陸上部じゃねーの」
「えへへ、はるくんと同じー」
春陽くんのつぶやきに、ねねちゃんが嬉しそうに反応する。
「はるくんもね、中学の時は陸上部だったの」
「マジで?」
私の言葉は、春陽くんの瞳を揺らがせるのに十分すぎた。
同じ運動部を選ぶなんて、春陽くんとはるくんは本当に魂レベルで繋がっている。
もっとも、はるくんは陸上部以外にも、助っ人としていろんな運動部に呼ばれていたけど。
「つーか、ヴァイオリンとの両立は厳しいかもしれないけど。それでも『共依存病』に打ち勝ったら、俺は陸上、秋斗はヴァイオリン、それぞれの道を歩みたい」
「うん、応援してる」
春陽くんの決意に、私は穏やかに応えた。