「……あ」
色の無くした夜空はやけに寂しい。
けど、先程、通り過ぎたある屋台が、私の目に止まる。
「たこ焼き、食べたい!」
「俺も!」
私と春陽くんは嬉々として屋台を目指す。
とはいえ、春陽くんの方が私より断然、足が早い。
それに浴衣だと歩き辛いし、動きにくい。
「雫、ごめんな。前ばかり見てた」
「ううん、いいよ。ありがとう」
気づいた春陽くんが振り返って、私の手を引いてくれた。
私たちは横に並んで、一緒にたこ焼きを購入する。
「たこ焼き、いいなー」
ねねちゃんは右手にわた飴、左手に林檎飴という完全装備中のため、たこ焼きまでは手が回らないようだ。
「たこ焼き、美味しいね」
「祭りの定番だなー」
私の前を歩く、春陽くんの背中が光を帯びる。
「はるくん、しずちゃん!」
「おう、今すぐ行く!」
春陽くんは私の手をつかんだまま、ねねちゃんがいる方向へと駆け出す。
春陽くんは本当に運動神経がいい。
運動神経……?
あ……。
「………っ」
何かに突き動かれるようにして、私の胸の奥で行き場のない感情が暴れ回る。
息が詰まって、次第に苦しくなっていく。
いろんな記憶が、私の頭の中を駆け巡っていった。
「…………」
頭の中が真っ白になる。
だんだんと意味を理解していくに連れて、私の瞳にじわじわと涙が滲んでいった。
「………春陽くんっ!」
私はそのまま、無我夢中で春陽くんに抱きついていた。
春陽くんは足を止めて振り返る。
「雫、どうかしたのか?」
「私、分かったの! あの時の言葉の意味!」
春陽くんがあの時、音楽室で告げようとしていたこと。
そんなの、一つしかない。
はるくんは運動神経が良かった。
中学に入学した頃は、いろんな運動部から引っ張りだこで大変だったと聞いた。
体育祭の時はいつも大活躍で、はるくんはみんなから助っ人を頼まれていた。
春陽くんも運動神経が良く、身体を動かすことを好んでいた。
秋斗くんも、外で自由に駆け回りたいって言ってた。
……そうだ。思い出せば、たくさんあった。
春陽くんたちの言葉にはいつだって、はるくんの存在があったこと。
……気づいてしまった。
秋斗くんと春陽くんにとって、ヴァイオリンは特別で、何よりも大切だった。
でも、春陽くんは……本当は別のことがしたかったんだ。
はるくんと同じで身体を動かしたい。
だから、きっと……。